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最近校内の静かな場所で彼女とふたりっきりで会うようになる。恋人同士ではないけれど、二人で静かにいたいとなんとなく思っているのだ。
昼休みになり僕らはその場所へと向かう。
校内の少し苔が生え、風がひゅ~と通る静かな場所でいつも僕はひとり自然を眺めている。
「ごめーん。遅くなった~」
「三鬼さん」
「待った?」
「ううん、待ってないよ」
こうして僕たちは朗々とした心地で過ごす。クラスとはまた違った朗らかな彼女の表情に僕は嬉々とした気持ちになる。
「真柴くん」
「ん?」
「私いまとても幸せ。今は前とはまた違った幸せ。私あなたといる時が、一番自分を出せられるの」
「……」
僕たちがこう出来るのも、あと何日なのだろうか……。
「やっほー、お二人さーん!」
腕を大きく振って、明るい顔して作業中の僕たちのところへやって来る。
「まーた、仕事かい? 今日もお疲さぁん」
「またあんた? なに? 仕事の邪魔」
「そう、つれないこと言うなよおー」
そう仲良く二人で話しているのを見て、僕はすっと静かに作業しに戻る。
喜多見くんが来る次の日も同様だ。その次の日も、またその次の日も。
理由は簡単だ。僕はもう少しで消えてなくなる存在。だから二人の間に余計なモノを作ってはいけない。
だからそう、だから二人の邪魔にならないよう避けていたのだ。が……、
「どうしたの真柴くん? なんで優世といる時だけ、そそくさといなくなるの?」
「えーと、それはその~……」
二人だけでいるいつもの時に三鬼さんが珍しく尖り気味の口調で僕に訊く。言うなれば詰問だ。
僕は言葉に窮する。
「なんか優世も哀しそうだったわよ。『またなんかしたかな?』って」
「……」
「あのバカに一発言っておくから。さあ、私に言ってみて」
「いっ、いや。そうじゃないんだ……」
「……?」
僕は言うべきか悩んだが、彼女に自分の病について悟られない程度に本当のことを話した。
そしたら険とした顔になり、
「呆れた! そんなこと考えてたの!?」
「…え?」
「そりゃあ確かに優世とは長い付き合いよ。親の代からよく知ってるわ。だからってあいつとは……ないわ……それはまったく以てあり得ないことね。考えただけで身の毛がよだつわ……」
「……」
「あなたも知ってると思うけど、彼かなりのナルシよ」
彼の自信に満ちた表情が脳裏によぎる。
「あ……あ~、確かに……」
「それに女をとっかえひっかえ。あー駄目ね~、ああいう男は私絶対無理」
「あはは……」
本当に嫌そうな顔を見て、僕は余計な世話をしたなと、なんとなく安堵した気持ちとになり少々苦笑い。
そしたら彼女は少し淋しそうな表情になる。
「私のことそんなに信用出来ない……?」
あまりの言葉にびっくりして、僕は全力で顔を横に振る。
「そ、そんなことない! 僕は三鬼さんのことすごく信用しているよ!」
「ほんと……?」
「ほんとほんと!!」
「良かった~……」
彼女はぱあっと、かつほっとした顔になる。
「う~ん、それじゃあこうしましょう!」
「ん?」
それから数日して、
「やっほーー! 真柴くーん!」
この土曜日に僕、三鬼さん、喜多見君の三人で会うことになった。
彼の相変わらずなテンションで僕は少々圧され気味だ。
「真柴くんを新たに交友を深めるべく、いまから三人で楽しくパーティーしようぜー!」
「ではこの三人で懇親会をしましょう」
「okー!!」
「お、おー…」
こうしてふたりの案内で色々と市内巡りをするのだった。
そして夜になり、僕は自分の部屋に戻る。
「疲れた~……。けど、いや~楽しかったー」
僕は自分の部屋からベランダに出て夜の星々を眺めながら、祈るように小さな声で願う。
「神様、仏様。もし少しでも延ばすことが出来るのなら、一日でも長く三人で過ごせますように」
そう。一日でも長く、この三人で……っ。
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