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そうして五月二十一日、俺の十九歳の誕生日。
場所は俺のマンション、十五階の窓から見える夜景を三上会長と二人占め。
豪華な料理ではなく、市販のバースデーケーキとチキンとピザが食べたいと言ったのは俺だ。子供の頃には叶えてもらえなかった「ささやかな家でのパーティー」がしたかった。
「誕生日おめでとう、玉雪」
「ありがとう会長。俺、凄く幸せ」
ソファの上に並んで座り、会長の大きな手に肩を抱かれてめいっぱいに甘える俺。ケーキを一口ずつ食べさせてもらって、何度もキスをして、トイレに行く時以外は一秒だって離れずに密着して、こんなに嬉しい誕生日がかつて一度だってあっただろうか。
──もしかしたら、今日こそ抱いてもらえるかも。
誕生日プレゼントは俺、なんて古いドラマみたいだけど……俺の胸は夜が深まるにつれて期待に高鳴っていた。
「……お、もう九時か。そろそろだな」
会長が腕時計を見て呟いた。もしかして帰ってしまうのかと思ったけれど、俺の頭を優しく撫でて囁いてくれた会長の次の言葉に、俺の心臓がキュッと緊張する。
「サプライズプレゼントがあるんだ。気に入ってもらえると嬉しいが」
「……ほ、ほんとに……?」
「ああ、お前のために用意したんだよ」
言いながら、会長が片手でスマホを操作する。
程なくして玄関のインターホンが鳴り、会長が「来たな」とソファを立ち上がった。何だろう。配達しなければならないほど大きな物なんだろうか。
「少し待っててくれ、すぐに戻るからな」
そわそわしながら待っていると、ややあってリビングに会長が戻ってきた。
その背後には、知らない男がいた。
「紹介するよ玉雪。彼の名前は堂島頼寿だ」
「ど、どうも……?」
高身長の会長よりも更に少し背が高い。すっきりと整った顔立ちに眠たげな二重瞼。若干乱れた黒髪に、ニコリともしないへの字口。ガタイも良くスーツの似合う男前だが、一体……誰なんだろう。
「彼が誕生日プレゼントだよ、玉雪」
「えっ?」
唐突に言われて頭の中が空転した。誕生日プレゼント──この男が?
「どういうことですか……?」
何とか声を出して呟いた俺に、会長が笑いながら説明する。
「玉雪。十九歳になった今日から、お前はSM界のスターになるんだ」
「……へ?」
「期待しているぞ。お前ならきっと日本一のスターになれる。今日まで大事に育ててきた俺の大事な玉雪。お前の相方を決めるのに少々悩んだが、頼寿ならきっと最高のパートナーになるだろう」
「スター……?」
「ああ、スターだ」
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