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近づく距離
家から遥か遠くでだが、肉眼で見える花火を、どうして毎年のように見に行かないといけないのか理解できなかった。
写真を撮るわけでもなく、ましては座って花火を眺めるわけでもない。
色んな屋台の食べ物を食べて、ただ話すだけ。
たったそれだけの事なのに、2時間は必ず花火大会の会場にいなくちゃいけなくて。それが俺はずっと苦痛だった。
普段は食べないような物とかがあって、それは食べたいなって気持ちにはなるけど、そこで2時間も過ごすくらいなら涼しくて快適な家でゲームとか受験勉強をしていた方がいい。
首をポキポキと鳴らしながらそう考えていると、友人の一人が勢いよく机にぶつかってきた。
「涼太、今年も俺と花火大会行こうぜ?」
「なんと、今年は俺も一緒に」
「いや、今年はパス」
背もたれにだらーんと寄り掛かり、パタパタと下敷きで仰ぎながら即答すれば、当然のように憤慨しだす友人たち。
「ふざけんな」
「ふざけてねぇよ。花火なんて見る必要ねぇし」
「なんつー発言してんだお前は! 今年からやっと一緒に行けるっていうのによ!」
「考え直せって。高校最後の花火大会なんだぞ?」
「花火大会は高校卒業しても続いていくだろうが」
「高校最後っていうのに意味があるんだろう?」
圭介も昴も、どうしてそんなに必死になっているのか解らない。
「別に、高校最後っていう言葉に魅力を感じない」
「何でこいつ、こんなに冷めてるの?」
「いやいや、俺が普通だから。行くとしても、それなりのことがないと無理」
そう。
俺の意思をガラリと変える、何かがないと。
例えば──なんて心の中で呟きながら、チラッと〝あの子〟を見る。
こんなに暑いというのに、俺と違って目は死んでいないし、汗一つかいていない。
暑さを忘れてしまうくらい可愛らしい笑顔を浮かべる彼女を見ると、何故か俺も笑みを浮かべたくなるし、何よりも胸が高鳴る。
花が綻ぶように笑う彼女に恋をしたのは、1年の時。
今、笑い合っている友人たちとクラスが離れてしまって凄く落ち込んでいる彼女を真横で見た瞬間、勢いよく心臓を握りしめられたかのような感覚に陥った。
俺はそんな彼女の友人たちと同じクラスになって、そっちかよ……なんて思ったのがぶっちゃけ本音で。けれど、離れてしまった友人たちに何か理由をつけて会いに来るだろうから、教室にいれば、あいつらと仲良くなれば毎日無条件に会える。なんて思っていたのに、彼女は俺のクラスに殆ど顔を出さなかった。
理由は単純。
友人たちが、彼女の教室へ遊びに行っていたから。
移動教室で廊下を歩く彼女を、開きっぱなしにしているドアから眺めたり、食堂で食べている姿をたまに見たり、体育祭や文化祭の時には遠目から見ていたりと、2年間なに一つと関りを持つことはなかった。
ただ、一番最初に見たのが悲しい表情だったから、彼女の笑顔を初めて見た時は心臓がこれでもかというくらい跳ね上がった。そこから俺は、ずっと彼女の虜になっていた。
そんな彼女と、今年初めて同じクラスになった。
浮かれていた俺を見兼ねて、圭介と昴が変なお節介をしだしてからは彼女たちと一緒に行動することが増えた。彼女もたくさん俺に話しかけてくれる。それだというのに、俺は人見知りという名の臆病者なため、未だに彼女とまともに話すことが出来ずにいた。
話しかけるなんて俺には出来ないから、いつも彼女から話しかけてくれて。それがとても格好悪くて、一歩踏み出したい気持ちはあるけど、そこまで欲がないというか。同じ空間にいるだけで今は満足しているし、欲を出して今よりも余計気まずくなったら立ち直れそうにない。
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