夢の中で

5/12

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「あ、お久しぶりです」  変わらず薬を服用していたある日、街中を歩いていると私服姿の先生と出会った。 「かなり顔色が良くなりましたね。凄く綺麗ですよ」 「ッ!」  お世辞だとわかっているのに、思いがけない先生の言葉に鋭く反応してしまう。 「あり、がとうございます。先生のおかげです」 「いえいえ、当然のことですよ」  彼氏のことを話そうかと考えたが、こんな重い話を聞かせるのも先生に迷惑だと考えて、踏みとどまった。 「せっかく会えたのですから、夕食でも一緒にどうですか?」 「えっ、食事ですか?」  先ほどの言葉といい、先生は距離の詰め方がかなり強引だ。そういえば、初めて会った時も先生から声をかけられたっけ。  けれど私は先生と親密な関係になりたいわけではない。それこそ医者と患者のような関係がいい。先生がその気なのかは知り得たものではないが、とにかくそうなってはいけないのだ。 「せっかくですが、用事がありま……」 「あっ! 明里じゃないか」  誘いを断ろうとした時、私の言葉を遮るように、一際大きな声が耳朶を打った。  久方ぶりに聞く声なのに、つい最近耳にしたような、心をキュッと締め付けるのはきっと。 「…………あんたがなんでここに居るのよ」  毎晩私の夢に現れる悪魔だからだろう。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加