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「あ、お久しぶりです」
変わらず薬を服用していたある日、街中を歩いていると私服姿の先生と出会った。
「かなり顔色が良くなりましたね。凄く綺麗ですよ」
「ッ!」
お世辞だとわかっているのに、思いがけない先生の言葉に鋭く反応してしまう。
「あり、がとうございます。先生のおかげです」
「いえいえ、当然のことですよ」
彼氏のことを話そうかと考えたが、こんな重い話を聞かせるのも先生に迷惑だと考えて、踏みとどまった。
「せっかく会えたのですから、夕食でも一緒にどうですか?」
「えっ、食事ですか?」
先ほどの言葉といい、先生は距離の詰め方がかなり強引だ。そういえば、初めて会った時も先生から声をかけられたっけ。
けれど私は先生と親密な関係になりたいわけではない。それこそ医者と患者のような関係がいい。先生がその気なのかは知り得たものではないが、とにかくそうなってはいけないのだ。
「せっかくですが、用事がありま……」
「あっ! 明里じゃないか」
誘いを断ろうとした時、私の言葉を遮るように、一際大きな声が耳朶を打った。
久方ぶりに聞く声なのに、つい最近耳にしたような、心をキュッと締め付けるのはきっと。
「…………あんたがなんでここに居るのよ」
毎晩私の夢に現れる悪魔だからだろう。
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