夢の中で

6/12

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「たまたまこっちに遊びに来てただけだって」  誠実な先生とは対照的に、元彼は雑にセットした金髪に主張が強いカラフルな服装だった。 「お前、電話にも出ねーし今まで何してたんだよ?」 「心配でもしてるつもり? あんたとは金輪際関わるつもりはなかったわよ」  辛辣で傲岸な言葉とは裏腹に、私は泣くのを必死に我慢していた。    勿論怒りはある。けれど三年という月日は長すぎたのだ。  最低で吐き気がする思い出があれば、二人で過ごした楽しい思い出も沢山ある。  別れた後、もし私が早く帰っていなければと考えたことも何度もある。 だから、 「俺ほんとに反省してるし、あの女とは別れたからさ。明里が良いならもう一回俺とやり直さないか?」  花が作り出す甘い蜜に、蜜蜂が誘い込まれるのは自然の摂理なのかもしれない。 「しょ、しょうがないわね」  言葉を捻り出そうとしたが、上手く出てこない。  素直になろうとしても、どうしてもできない。きっと舐められたくないからだろう。  そんな私の心情を気にもしない元彼はぱっと破顔して私の手を握った。 「今度こそは絶対幸せにしてみせるからさ、また一緒に暮らそうよ」  うん、と言いかけたところで唐突に、私の意識は後ろに佇む先生に向いた。  元彼の登場に我を忘れていた私は、先生の存在をも忘れてしまっていたのだ。  冷静になって振り返ると、とても他人に聞かせられる内容ではなかった。 「ごめんなさ……」  振り返って先生の顔色を伺った時、私は続きの言葉を失った。  温和で笑顔が絶えない人だと思っていた先生が、この時ばかりは、鬼の形相で元彼を睨めつけていたからだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加