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「成程。それは大変でしたね」
私の話を一通り静かに聞いた彼は、考え込むようにうーんと唸っていた。
話初めこそたどたどしかったが、元彼との関係を知られた以上どうにでもなれという玉砕覚悟で話し切ることができた。
「今日のこともあったし、眠るのが怖いんです。またあいつが現れるんじゃないかって、気が気でなくて」
「専門家ではないので、あくまで私個人の意見として。まず、眠らないという選択はしないで下さい」
一応考えてはいたが、彼からキツく釘を刺されてしまった。
「妥当な案としては、元彼のことを意識しないことですね。遠坂さん頼りになってはしまうのですが」
困り顔の彼。予想していたことだが、具体的な解決策は浮かばなかったらしい。
「私も昔、恐ろしい夢を見ることがありまして、母に助けを求めたら寝る直前に自分の好きなものを思い浮かべると良いそうですよ。遠坂さんはどうですか?」
どうですか、というのは私の好きなものを聞いているのだろうか。
うーん……。
「あれ? 顔が赤くなってますけど、どうかしましたか」
「やっ、何でもないです!」
い、言えるわけない。好きなものと聞いて、咄嗟に思いついたのが……今目の前にいる彼だなんて。
少し冷静になろうと外の景色に目を向けると、すっかり日が落ちていた。
「もうこんな時間ですか。食事も終わった事ですし、お開きにしますか」
「そうですね。ところで、今日は先生のお家にお邪魔になってもいいですか?」
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