前章

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「もう私くらいだろうね。十年以上前かしら、 あの祠へのお供えが大流行りしたの」 「…お供えが流行るの?」 「お供え物が綺麗になくなるようになってね、 これは本当に神様がいるんじゃないかって」 「………」 ああ……それ、神様じゃないな。うん。 「たくさんの人がお供えしていたら、 なくなる物が厳選され始めて。 残された人から徐々に遠ざかって……お祖母ちゃんの油揚げはね、まだ残されたことないんだよ」 それで習慣になったのだとか。 どこか自慢げな声色に、 笑い返す頬がちょっと引きつった。 強張りが解ける前に足は鳥居に着いて、 小皿が丁重に供えられる。 手を合わせる祖母に倣いつつ、 薄闇の格子戸をじっと見つめた。 お揚げを狙う細目でも覗かないかと思ったのだけど、小さな祠はどこまでも祠然としている。 さすがに状況はわきまえるのか、 品行方正なルームメイトに止められたのか。 どのみちお祖母ちゃんが立ちあがって、 私のにらみも打ち切られた。 「栗ちゃん、明日はお昼から?」 当たり前のように小皿を置き去りにして、 帰路の中で尋ねられる。 まだ鳥居を振り返っていた私は慌てて頷いた。
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