前章

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 ☆ 「今日もいないとか」 「泊まりって言ったよ?」 ふてくされに応じる声は落ち着き払い、 ティーポットを傾ける。 白地に銀のラインが美しいそれはやはり上質な見た目で、揃いのカップに紅色際立つ茶を注ぐ。 「あ、ルイボス」 「昨日買ってみた」 「やっぱり来客待ちじゃない」 「それより今日のお土産は?」 「ない。またあなたに食べられるだけだから」 「そっちこそちゃんとわかってるじゃないか」 ふん、とばかりにカップが取られる。 横宮は窓際の畳に膝を崩した。 熱をもつ日差しが、 縁側に陣取る茶の髪をふわりと光らせる。 「本当は僕に会いに来た?」 「あんたその手の台詞似合わない」 「はは、そうじゃなくて。 昨日言ったでしょ、鈍くなったって」 ルイボスティーがことりと揺れる。 心なしか眼を泳がせる端正な横顔を、 穏やかな視線が捉える。
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