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「でも、それ以上に読みがはずれたなって」 得意げだった藍の瞳がきょとんと瞬く。 そこから眼をそらし、 横宮は頭上の枝葉を視界に入れた。 ただの民家の庭が、ほんの数ヶ月でこの姿になったのはおよそ五年前のこと。 それが長いのか短いのか、 今の彼には判断できない。 「……動くならこっちだと思ったんだ。 “前任者” も遠出するし、ちょうどいいって。 …でも別の考えがあったらしい。 やっぱり鈍くなったかな」 眼を戻せば、 話が見えないせいで機嫌を損ねたにらみ顔。 それを見てなお逡巡し、 けれど彼は意を決したように口を開いた。 ☆ 今年の夏は暑いのかもしれない。 新緑色を焼く日差しに目を細める。 そういえば、前回もよく晴れた暖かい日だった。 「もしかして晴れ男ですか?」 「この暑さをぼくのせいにするな」 すっかりほぐれてしまった私へ、 鋭い目つきがしっかり突っ込んだ。 メールならありえない一言に、 こんな感じだったと笑ってしまう。
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