前章

17/20
前へ
/45ページ
次へ
連想するまま言ったら当たってしまった。 思わず口をつぐむ私へ、 汐美さんは眉間にしわを寄せて補足にかかる。 「この近くにお供えが本当に消える祠があるらしい。君ならまた妙なことも知ってそうだと……いや、仕事だからな? ぼく自身はそこまで信じてない」 どんな顔をしていたのか、 こちらを見るなり続く言葉が変わる。 当の私は古い噂の再登場に戸惑っただけだったのだけど、これにはえっと声をあげた。 にらまれたものの、仕方ないと思う。 初対面の場所と状況があれなのだ。 「本物がそう滅多にあるわけないだろう…… それで、来てくれるのか? 嫌なら別に構わないけど」 「あっいえ、行きます!」 置いていかれそうになって慌てて追いつく。 一瞬、小さな手紙の数々が頭に浮かんだけれど、先に足が動いていた。 「えっと……じゃあその、 今回も嘘だと思うんですか?」 駐車場を抜けて川沿いへ出ながらそっと訊いてみる。 「嘘というより、 単に動物か何かの仕業じゃないか」 返答は実に冷めていて、 そのくせ見上げてみた顔は、 それが真相だと信じていない面持ちだった。 嘘と勘違いの間に散らばる “本物” を、 なんとか探しだそうとしている、そんな顔。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加