後章

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後章

「裏切り者」 出てきた言葉は苛烈だった。 そのくせ表情は拗ねた子どもだったから、 言われた青年は穏やかな調子を保つ。 「周りの動きまで止められないよ」 「お隣さんに会うの許したのはあんたでしょ。 時期を待つとか言っといて」 「許した……うん、まあそうだね」 止めようとしたが無理だった、とは言わず、 シンプルな頷きに端麗な顔が天を仰ぐ。 素直に認められて気持ちのぶつけ場所をなくしたようなその仕草に、横宮は重ねて。 「そうだけど、それ以上に他がいろいろと動いてる。僕自身も……彼だって」 「何よ、読みはずしたくせに」 慎重に紡がれた言葉は、 ぱっと顔を戻した一言に遮られた。 触れられたくない領域から慌てて押し戻すように、 やけっぱちな抗議がとぶ。 「鈍いんじゃない、会わないからでしょ。 相手を知らなきゃ予測もつかないって。 どうすんの他人(ひと)事じゃないよ、 お隣さんも不意打ちくらって、 戻ってきたら全然違う眼で見てくるかも」 「僕じゃもう間に合わないよ。 ……君が行けばいいんじゃない?」 軽口と本気が半分ずつの口調を、 藍の瞳がにらみつける。 非難と困惑と逡巡がごちゃまぜになったその顔に、家主の青年は小さなため息でついとカップを押し出した。 促されるまま、ルイボスティーが空になる。
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