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横顔にいくらか落ち着きが戻ると、
彼はまた言葉を選ぶように、
「ここでの時間をね、長かったと思わないんだ。
来た時は長くなると思ったのに」
「………」
「だから気になってるよ、もちろん。
これまでも散々巻きこんできたし……だけど、
僕は待ってみようと思う。
いろいろ知られたとしても、
今なら大丈夫かなって」
「…もう一人は? “お友達” でしょ、
混乱でひっくり返ってもいいの?」
「そうはならないよ」
確信した声音に、
客人は渋面ながらそれ以上言えず口を閉ざす。
しかしそこへ、横宮はあえて踏みこむように。
「それに、ここで彼の心配をする役目は僕じゃないと思うんだよね」
いっそ無神経なほどにこにこと笑む一言に、
華やかな面がじわりと赤らむ。
「──…そう。
実はとっくに痺れを切らしてたってわけね……」
続いて動いた唇からは、
信じられないほど低い声が唸り出た。
熱い日差しも凍てつきそうな不機嫌に、さすがの家主もやりすぎたと頬がひきつったのは連休半ばの昼さがり。
遠い土地でとある祠の扉が開いた、
ちょうどその頃だった。
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