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腕を取られたまま振り向けば、
あの垂れ布の脇に小さな影。
神社で見かけるような浅葱袴の子どもが一人、
左右に赤い房飾りのついた白狐の面で座している。
「…え、誰ですか?」
突然すぎてつい普通に問いかけたら、
腕を掴む手に力が入った。
狐面はぷるぷると左右に振れ、
子どもの指が布を指す。
「…まあよろしい。
普段ここに暮らす者への評価としておきましょう。
──さて青年。話が済むまでお前は帰せません」
布の向こうからまた声が響く。
ちょっと古風なもの言いは品を感じて、
昔のお嬢様を思わせた。
けれどその声が指した人は、
背を向けたまま微動だにしない。
「青年? これ、汐美殿。
聞こえないふりは無駄でしてよ」
腕にぎゅっと食いこむ指が震えていた。
そこまで痛くないから、力の入りすぎではない。
そっと手をのせてみると、
ぴくりと肩を揺らして蒼白な顔が振り向いた。
「わ、大丈夫ですか?」
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