後章

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「…何が? 何ともないけど? それより安易に応じるな。こういうのは返事をすると大体ろくな事にならない」 お仕事とあって調べてきたのか、何ともないわけがない顔色がそれでも私をたしなめる。 いや、いくら私でも全くの未知へ不用心に声はかけない。 「…お知り合いでは?」 「祠に知り合いはいないっ…!」 名前を呼ばれたでしょうと訊けば、 すごい勢いで否定された。 そうだ横宮さんとは違うんだと思っていると、 涼やかな声が後に続く。 「接触はこれが初めてですのよ。 なのでご挨拶から入りたいところですが…栗ちゃんさんまで落ちてきた以上、時間はとれませんね。 あのお祖母(ばあ)さまを心配させては明日のお揚げに影響がでます」 話しかけられて、 汐美さんが再度階段へ顔をそむける。 私は反対に垂れ布を凝視した。 この場所、落ちる直前に見た尻尾、 控える子の狐面に、私の呼び方とお揚げへの執着。 やっぱり疑いようがない。 こちらの視線に気づいたか、 布の合わせ目がかすかに開く。 土を知らないような白い(おもて)と、 微笑むような三日月の瞳が、 まさしく(やしろ)の脇に建つ白狐の像を連想させた。
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