3人が本棚に入れています
本棚に追加
「…何が? 何ともないけど?
それより安易に応じるな。こういうのは返事をすると大体ろくな事にならない」
お仕事とあって調べてきたのか、何ともないわけがない顔色がそれでも私をたしなめる。
いや、いくら私でも全くの未知へ不用心に声はかけない。
「…お知り合いでは?」
「祠に知り合いはいないっ…!」
名前を呼ばれたでしょうと訊けば、
すごい勢いで否定された。
そうだ横宮さんとは違うんだと思っていると、
涼やかな声が後に続く。
「接触はこれが初めてですのよ。
なのでご挨拶から入りたいところですが…栗ちゃんさんまで落ちてきた以上、時間はとれませんね。
あのお祖母さまを心配させては明日のお揚げに影響がでます」
話しかけられて、
汐美さんが再度階段へ顔をそむける。
私は反対に垂れ布を凝視した。
この場所、落ちる直前に見た尻尾、
控える子の狐面に、私の呼び方とお揚げへの執着。
やっぱり疑いようがない。
こちらの視線に気づいたか、
布の合わせ目がかすかに開く。
土を知らないような白い面と、
微笑むような三日月の瞳が、
まさしく社の脇に建つ白狐の像を連想させた。
最初のコメントを投稿しよう!