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息を呑む間に布は閉じられて、いつからかそばに立った子どもがワンピースを引っぱる。
見下ろせば、半紙が一枚差し出された。
上質な手触りに、
私でもなんとか読める崩しの筆文字。
それだからざっと眺めた先、
「…副、会長……?」
末の署名に、それを見つけた。
何度も聞いた役職。
けれど、この筆跡も白い面も私は知らない。
知らないからこそ、答えがすぐに集約される。
「左様。
わたくしが、わたくしのみが、
全国稲荷ネットワーク協会の副会長です」
呟きを拾って、
布の向こうから力強い名乗りが来た。
脇に戻った狐面さんが恐縮しきりに身をすぼめる。
…ああ。何だろう、先程よりも親しみが。
「──…ちょっと…」
力説に同情したくなっていると、
反対側から腕を揺らされた。
「副会長……? 今、協会って言ったか?」
「え? はい……あれ、知ってるんですか?」
手の震えが止まっていた。
ささやかながら明らかな変化に、
返事がなくとも半紙を手渡してみる。
──終わりが副会長さんなら、
始まりは汐美明良殿とあったから。
階段の際でも部屋は明るく、
だからそれほど待たずに吐息が聞こえた。
「あのう……何て書いてありました?」
読むのは遠慮しておいた内容をそっと尋ねてみる。
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