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答える人はこちらを見ぬまま。
「──ぼくに横宮さんとの縁を切れってさ」
平坦な声でそう告げた。
*
一つ。
全国の狐さんたちは、
仕事に支障のない範囲で汐美さんに協力する。
一つ。
その代わり、
汐美さんは横宮さんと今後関わりを持たない。
改めて眼を通したそれには契約書とあって、
それなのに、全文はたったこれだけだった。
「双方に利がありましてよ」
自信ある声は変わらず布の向こうから。
もう一人は頑なな後姿こそ解いたものの、
声の方向は未だ見ず半紙に眼を落としている。
私はその横で、
何度も読み返しては目を白黒させていた。
お遊びみたいな大雑把さだ。
そのくせ、張りつめた空気は違うと告げている。
受け取った側がひどく真剣な面持ちだった。
「……汐美さん、これの意味わかりますか」
最初の項目を指してみれば、
その一文を見つめて短く。
「協力の意味くらいわかる」
「そうじゃなくて」
「…… “本物探しに” ってことだろう」
本物ならここにあるのに?
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