後章

9/25
前へ
/45ページ
次へ
内心首を捻るものの、ごまかしの気配はない。 この “本物” ではだめなんだろうか。 わざわざ取材しにきたのに。 「じゃあ、こっちは……」 「文面通りです」 次の項目を指せば、 答えは別方向からやってきた。 向こうが見えない絶妙な角度で、 狐面さんが布の端を持ち上げている。 相も変わらぬ品の良さで、 副会長さんは不思議そうに私へ続けた。 「そもそも、なぜ栗ちゃんさんが驚いてますの? とりもちなどやめるよう、 その者を横宮さんに近づけぬよう、 こちらは何度も止めましてよ」 「えっ…あっ、あの手紙そういう意味ですか?」 いや、そういうことなら主語を明記してほしかった。 この契約書といい、この方たちの文は行間にこめられるものが多すぎる…。 「同席は仕方ありませんが、口出しは無用。 これは横宮さんのお引越しにも関わる話です、 とにかくもお静かに」 「………」 ──慌てた頭が、一瞬で覚めた。 実をいえば、私もこの場の自分が部外者に近いことくらい察していた。 何せ突きとばされても飛びこんだのだ。 ただあからさまな置き去りは嫌で、 質問してみただけだった。 けれど、多分。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加