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「旅行? 嘘でしょ、つまらなすぎる!」
「……あの子には運が良かったかもね……」
熱いほどの陽を木陰が遮る縁側で、家主の青年は来たばかりの客人に早速苦笑いしていた。
素通りされるわけはなく、
華やかな目元がぐっと細められる。
「不運よ! やっと春の調合が一段落したのに行き違いなんて、あたしがあの子なら泣く!」
「…僕が君なら、
そうならないよう事前に知らせるけど」
「驚かせたかったの! ていうかあんた、
本当はあたしが来ること察してたでしょ?」
明らかに応接用のティーカップを軽く弾いて、
濡れ縁に座る女性が家主をにらみつける。
整いすぎるほど整った顔はしかし今は幼げで、
にらまれた側は気圧されることなく対のカップを手に取った。
「──来客には備えてたかな」
「ほら! だったらあのお隣さんに伝えても……
んっ、何これ、麦茶?」
「うん、深煎り」
涼しく告げる青年を、
喉に小骨を引っかけたような顔がじっとり見る。
味に文句はないらしく、カップは再度傾けられた。
彼女の来訪は突然だった。
それ以上にこれまでなかった。
門を通らず庭に現れ、年明けにただ一度出くわした少女を「あの子いるー?」と親友のように呼ばわるそのひとを彼が客としたのは、その珍しさ故もある。
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