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そうして、主な理由は。 「…ところで、なんで全部一本なの?」 「女の子二人でちょっとずつ摘もうと思ったの」 「え、僕の分は?」 「砂肝」 「ああ、これか」 指された一本を、 家主がさしたる不満もなく摘む。 二人の間に置かれた皿にはあと四本の串があり、 反対側からのびた手はつくねを取った。 「あ、やっぱりあそこの屋台だ。 昼間によく買えたね」 「鳥店主に薬香を一つサービスしたの。 あんたのためじゃなかったのに」 「日持ちしないから仕方ないよ。 ──何度食べても良いなぁ、 この噛みごたえに甘辛のたれが」 「砂肝は塩でしょ。 確かにこの店の基本はたれだけど、 肉の旨味は塩のほうが引き立つって」 「もちろん塩も好きだけど、 僕としては炭火で焦げたたれの香ばしさが」 「ああ、入門にして王道ね。 いつだったかなぁ、粗めの岩塩で食べたことがあったの。未だにあたしの頂点はあれ」 「どこの店?」 「忘れた」 「それはあんまりだよ……」 この上なく切ない瞳を後目(しりめ)に、 上品な口がつくねを大きくかじりとる。 「…それにしても、 これって持ってきてよかったの。“こっち側” に」
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