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前章
「あぁ」と。
困惑色の声に、つい自嘲の笑みが続く。
取り出した携帯には新着メールが映っていた。
なかなかの長文だが、困惑の矛先はそこでなく。
「…だから、どう返せって言うんだ……」
広げていたノートにため息を呑ませて、
汐美明良は小さく独りごちた。
先の晩秋に出会ったきりの少女から最初のメールが届いたのは、年明けた厳寒の中だった。
まあ連絡先を教えていいと、馴染みの老爺へ頷いたのは自分なのだが──本当に届き始めれば、
彼はまったくもって途方に暮れてしまっていた。
共通の知人の存在と、
彼女のその立ち位置で失念していたのだが。
女子高生と、何を話せというのだろうか。
単刀直入に切りこむべきでないとはさすがにわかる。
となれば他愛のないやりとりが必要で、
明良はそこにつまずいた。
そもそもこちらから送っていいのか、
そこに迷う彼をよそに、
届くメールはどんどん増えた。
数日おきが毎日になり。
話題を探すおずおずとした調子が消え。
“お隣さん” のそれよりずっと詳細な彼女自身の日常が綴られ始めた辺りで、とりあえず頭が痛くなった。
いっそ顔を合わせてしまえば、
こちらも口が回るものを。
それでも毎回返事を捻り出すのは、
やはりこの繋がりを失うのが惜しいからだ。
訊きたいことがあるし、それに。
「本当にとりもつつもりか……」
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