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「うっ……」
倒れ込んでいる私の目の前には、アスファルトに広がっていく真っ赤な血の海が広がっている。
人生で味わったことのない程の痛みが続いて、明らかに意識が朦朧として来ている。
誰なの。私にこんな事をした奴は。
赤い海にうつ伏せに浸かる私は、気を失いそうな痛みの中、歯を食いしばって限界まで視界を上げる。
すると、私の瞳に映り込んだのは艶のある綺麗な長い黒髪だった。
その髪に見覚えはなく、知り合いと照らし合わせても一致する人はいない。
もう少し視線を上げれば顔まで見えそうなのに、体が言うことを聞かない。
せめて誰の仕業か知りたいという気持ちとは裏腹に、視線はどんどん下がって地面まで落ちてしまった。
私の視界には、どす黒い革靴のようなものが映る。
うつ伏せで首だけ横を向く体勢のまま、もう力なんて全く入らない手が勝手にピクッと動いた。
徐々に意識が薄れて行く中、私は自分を殺した人物も知らないまま、このまま死ぬんだろうと思うと、酷く悔やんだ。
今日は私の結婚式の日だった。
本当なら、自分の人生の中で最高な日になるはずだったのに……、なんでこんな事に……。
今頃結婚式場では、夫になるはずだった彼や式場の人たちが遅いと探しているのかもしれない。
あと――どこで嗅ぎつけたのか分からないけど、教えてもいてないのに出席すると言い張った両親も……。
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