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幼馴染のグリア・グッドヘンは病弱な少年で、線の細い淡雪のような外見をしていた。
特徴的な銀の髪と水色の瞳で、高名なグッドヘン家の者であると一目でわかる。
あの頃、日陰で読書の手を止めて遠くを眺めていたのは、世を儚んでいたのではなく、何か動き出す準備をしていたのだと、今ならわかる。
ロズル領の次期領主、ビクター・ロズルはグリアが大好きだった。
家格が下の遊び相手はビクターの機嫌を取ろうとする。ロズル家に匹敵するグッドヘン家のグリアだけが、ビクターの理解者だった――いや、そうであればいいと夢想していた。
グリアは素朴な性格だ。興味が湧けば、どんな身分の者にでも話しかける。
その日も、農夫を呼び止めて、持っていた枝葉を掻き折る農具について質問をしていた。土くれや草木に対して熱心に好奇心を向けるのに、ビクターには欠片も注目を向けない。
好奇心を満たしたグリアは、ビクターがいるのも忘れたように木陰で本に没頭してしまう。
外に遊びに行こうと、誘ったのはビクターだった。それなのにグリアの頭の中は、今見た農具の歯車のことでいっぱいだ。
ビクターは、ゆっくりとグリアに近づくと、グリアの本を取り上げ、真っ二つに引き裂いた。
「ビクター……?」
座ったままぽかんと口を開けて見上げるグリアの目に、みるみる涙が浮かぶ。
束の間、グリアの視線は全てビクターに向けられた。ビクターの背にぞくぞくとした快感が駆け上がる。
学園に入る頃、グリアの恋人を横取りすれば、効率良くグリアを絶望させられると気が付いたビクターは、グリアが淡い恋心を寄せる者に声をかけだした。
ビクターは巧みに誘い、奪う。その度にグリアは水色の眼を見開いて、表情の乏しい顔に絶望を浮かべる。なんとも甘美な時間だ。ビクターの悪い遊びはグリアから奪うものがなくなるまで続いた。
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