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グリアからポートマン家の令嬢を奪うのは容易かった。グリアをその場に呼び出す方が難しかったくらいだ。
「グリア、ごらんよ。あの子、家名が望みかと思ったけど、体が疼いただけだったようだね。あれは、性豪というやつさ。三回目を断ったら帰っていった。残念なことだよね。僕たちには純粋な出会いが用意されていない。ああやって打算的な女ばかりがやってくる」
ビクターの寝乱れた姿と、走り去った恋人の様子で、グリアは何が起きたのかを悟った。やっと、グッドヘンの名ではなく、グリア個人を愛してくれる女性に出会えたと思っていたというのに。
「ビクター、お前……」
「あの娘のことは忘れた方がいい。僕の手にも余る阿婆擦れだった」
ビクターは気の毒そうな顔をして、グリアの顔に浮かぶ絶望を、舐めるように観察する。
「残念だったな。あんなどうしようもない女に目をつけられて」
「……ああ」
そんなことが起きても、グリアは誰も責めなかった。
恋人だと思っていた娘はビクターの手を取った。それが現実だ。
グッドヘン家もロズル家も、この国では高名すぎる。
聡いグリアは、権力に引き付けられるのは人として仕方のないことだと、納得してしまう。
それ以降、グリアは、近くに人を置かなくなった。社交の場にも顔を出さない。それどころか、後継者の座を姉に譲り、騎士になって家を出てしまった。
グリアから何かを取り上げた時の顔は最高だったが、もうグリアばかりではその性癖を満たすことができない。
一度覚えた楽しみを諦められないビクターは、仕方なく、ロズル家の権力に興味を持つ恋人がいる者を片っ端からベッドに誘うようになっていった。
ビクターに声をかけられて、ベッドにあがる者は少なからずいる。そうしむけているのは自分なのに、恋人たちの破局にビクターは少し落胆する。
ビクターは儀式めいたやりとりで、奪った者たちを寝台から追い出すと決めている。
一晩、相手と過ごしたビクターは、寝台に留まる相手に「僕を愛しているのなら、国もロズル家も捨てて、駆け落ちしないか」と切り出す。
ロズル家との繋がりの為に、恋人を裏切ってビクターの寵愛を受けようとした者たちは、この儀式に皆、狼狽した。
「僕じゃなくて権力が欲しかったのかい?」と悲しそうな顔をすれば、相手は逃げるようにしてビクターから離れていく。
動揺した顔を見せた瞬間を詰るのが、ビクターは殊の外好きだった。
もう、こればかりはどうしようもない。それが好きなのだから。
この遊びの終焉は、偶然グリアに秘密の恋人がいたことが発覚したことから始まる。
どうやら今度の恋人は権力に取り入ろうとする娘たちとは毛色が違うようだ。もしかしたらまた、グリアの絶望が見られるかもしれない。そう思うと、ビクターは、グリアの恋人が欲しくなった。
しかし、残念なことにグリアの恋人は普通ではなかった。誘惑しようとしたビクターは、逆にやり込められて、吊るしあげられたのだ。
『全てを捨てて、俺についてきてくれないか』とグリアが問えば『ええ、いいですよ!』と真剣に答えるグリアの恋人は、まるでお話の騎士だ。とても勝ち目がない。
何もかもが、いつものようにはいかない。手ひどく振られただけでなく、今までの悪行が領主である父の知るところとなり、ビクターの跡継ぎとしての立場は危うくなった。
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