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それをきっかけに、ビクターは嫌がっていた後継者としての仕事に精を出すようになった。
だからといって鬼薔薇に抱かれるのをやめたわけではない。鬼薔薇が別の客を取るたびに泣くのは、相変わらずだ。
ビクターは鬼薔薇を身請けすることを諦めなかった。ロズル家の名を掲げて、花街の支配人に掛け合ってみたが一蹴された。ロズル家の力が花街に与える影響が微々たるものだと知り、ビクターは、より大きな権力を欲するようになっていった。
一刻も早く、力を。鬼薔薇が誰かの手に堕ちる前に。
そうしてがむしゃらに次期領主として仕事をするうちに、いつの間にか、ビクターは信用を回復していた。女遊びもせず、ひたすら領の利益を求める姿は人が変わったようにさえ見えた。国を支配するギルドの覚えもめでたく、発言力も徐々にあがってきている。
その間も、何度も鬼薔薇の身請けを頼みこみ、根負けした支配人が鬼薔薇の了解があれば、と言い出すまでになっていた。
ビクターは最後の勝負を仕掛けていた。あとは鬼薔薇が頷くだけでいい。
「いよいよ年季が明けるね。ロズル家はギルドの決定に口出しできるくらいには力をつけてきている。そろそろ諦めて僕に囲われてくれないか」
ひどく甚振られて、寝台から起き上がれないままビクターは宣言する。今日の鬼薔薇はビクターが泣いて頼んでも快感から降ろしてくれなかった。ずっと喘いでいて疲労困憊だ。
鬼薔薇は枕に突っ伏したビクターの髪を撫で、全て受け入れた献身を誉める。
「本当に、騎士様は悪い方だ。私に、ロズル家の御曹司を託すとは。なんと残酷な……」
いつもと違う口調の鬼薔薇に驚いて顔をあげると、大きな手が愛しそうにビクターの頬を撫でる。
「鬼薔薇、今……」
鬼薔薇は笑うと、ビクターの顎を掬い上げて、初めての口付けを交わした。
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