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かあさんは、嘘吐きだ。
とうさんが、どっかにいる理由くらい薄々気付いている。
とうさんは、かあさんの深い愛情を束縛と受け取った。
かあさんの愛情深さに応えたくても、とうさんはその愛情を受け止められなかった。
大好きなハンバーグを作ってくれたとしてもそれがまいにちだと胃もたれしてくる。
いくら好きなものでもそれがまいにちだと、もう、いいです、となるものだ。
花とて水を与えないと枯渇してしまうが、与えすぎても枯れてしまう。
花、といえば。
とうさんが出て行った日、食卓にはとうさんが大好きだったハンバーグと紫陽花が差された花瓶があった。
かあさんは、ふだんは花なんて興味がないひとなのに、どうして、とそのときは疑問に思っていたが。
どうやら、とうさんがかあさんにあげた餞別の花だったらしい。
紫陽花の花言葉は、たしか、『移り気、家族愛』だったはずだ。
とうさんが、かあさんと別れてすぐに新しい女性と添い遂げたことを知っている。
そして新しい女性と添い遂げ新しい家族といっしょに家庭を持ってからも僕たち親子を気にかけ特に僕にはまいとし誕生日やクリスマスプレゼント、お年玉をくれたものだ。
大人になってから知ったことだが、成人するまで養育費払ってくれていたらしい。
これも大人になってから知ったことだが、離婚した父親が養育費払わないという話もよく聞く話らしい。
とうさん。
あの紫陽花にはとうさんの別離と愛情を込めていたのだよね、たぶん。
かあさん。
かあさんの深い愛情をわかってくれるひとに今度は出会えたらいいね。
幼い頃に聞いた『ねえ、どうしてぱぱとままはわかれたの?』の問いにかあさんは、『ぱぱとままはかわいいあなたを取り合ってたのよ』と嘘吐いたこと、僕はそんなに憎んでいないよ。
むしろ嘘吐かせてごめんね。
残酷なこと聞いてごめんね。
今日は母の日だから、そんな幼き日の罪を贖罪したいのとかあさんへの感謝と餞別の念を込めて紫陽花を送らせていただきます。
雨上がりのそらが、祝福するように虹の橋をかけている。
雨が降ってないあいだに走り出したから、水たまりがチャポンっと、音をたてて小路に咲く紫陽花にかかった。
紫陽花は、虹色のかかった朝露に濡れていた。
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