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ふしぎな手
「誰だ⁉こんないたずらしたのは⁉」
ザワザワ・・・教室中が騒然となった。修学旅行の一か月後に出来上がってきた写真を見ていた時のことだ。
青空の下、沖縄の守礼門の前で整列して撮ったクラスの集合写真。そこに正体不明の、光る白い手が写り込んでいたのだ。しかもこともあろうに、最後列にいた僕の頭のすぐ真上に。
撮影の時、僕の後ろに誰かいたのだろうか?でも、その割には角度が不自然で、まるで手だけが宙に浮いているようにも見える。となると、霊の仕業か⁉ よくある人の顔ではなく、手だけの心霊写真というのも、独特の不気味さがあるものだ。
それからというもの、僕は『手』というものを病的に怖がるようになった。壁に手形の汚れがあるだけでビクッとなったり、天井の模様、空の雲も手の形に見え、ついには夢にまで出てきたり・・・。いわゆるノイローゼだ。
数日後、僕は親が檀家をしているお寺の紹介で、霊験あらたかといわれているお坊さんを訪ねていた。
「・・・見せてみなさい」
かすれた、しわがれた声が言った。もうかなりお爺さんの住職だった。それでも、もさもさの眉毛の下の黒い目は、怖いくらい鋭い眼光を放っている。
住職は例の写真をしばらくジッと見ていたが、やがてそっと卓上に置いた。そして深々と頭を下げ、両手を合わせた。
「これは悪いものではないから、大事に持っていなさい。できたら、毎日お水をお供えしなさい」
本当だろうか?まだ僕は半信半疑だった。せめて形だけのお祓いでもしてくれれば、その方がまだ気が楽になったのに・・・。
結局その日、僕の不安が解消されることはなかった。
次の日、学校の帰り道。大通りを歩いていた僕は、突然ギクッとなって足が止まった。
(また手だ!)
工事現場のフェンスにかかっていた『危ないから入ってはいけません』という看板――正確には、作業員が片手を突き出しているポーズの絵に対して、いつものように足がすくんでしまったのだ。
その直後のこと。ガーン・・!! 数メートル先の歩道に物凄い轟音が響き渡り、コンクリート片が飛び散った。なにか恐ろしい事が起きたのだ!しかし舞い上がった砂埃のせいで、すぐには何も見えない。
やがて視界が戻った時、全てを理解した僕は顔面蒼白になった。眼前にあったのは――歩道に突き刺さった巨大な鉄骨!信じられないことに、重機のクレーンで吊り下げられていた中の一本が、頭上から落下してきたのだ!
危なかった・・・もしあの時に足が止まらなかったら、僕は間違いなく死んでいただろう。
それ以来、あれほど悩まされていた『手』への恐怖はピタリと消え、もう二度と現れることはなかった。
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