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クラスメイトにあだ名をつけることを教えてくれたのも、お母さんだ。
三年生に上がってクラス替えがあったせいか、ますますぼくは学校になじめなくなっていた。とうぜん、友達もゼロだ。
担任のヨウコ先生は、一番はじめの学級会で、ぼくの病気について説明してくれた。春休みに先生とお父さんお母さんが話しあって、みんなに伝えようと決めたらしい。できるだけわかりやすく話してくれたけれど、本当に理解できた生徒は一人もいなかったと思う。だってぼく自身がこの病気についてよくわかってないんだもの。仕方がない。
みんな最初は不思議そうに、遠くからぼくがどんな人間かを探っていた。中には気をつかって話かけてくれる子もいた。でもぼくが心を閉ざしていることがわかると、その子たちもやがて離れていった。
だってぼくは、誰かと仲良くなったとしても、次の日にその子を見つけることができない。その子が「おはよう」とか、「昨日は楽しかったよ」と声をかけてくれることを願うだけ。もしできることがあるならば、その子の名前を大声で呼び続けるぐらいだ。「〇〇ちゃん、どこにいるの?」って。
それに見つかったとしてもだ。その子が昨日遊んだ子かどうか、本当のところはわからない。だって顔を覚えられないのだから。
幼稚でらんぼうな男の子。気味悪がって近づかない女の子。顔が見えない何だかよくわからない人たちは、本当に必要なんだろうか。ぼくをよく思ってない人と、仲良くして何になるんだろうか。ぼんやりとだったけれど、そんなことを考えるようになっていた。
その話をすると、お母さんは泣きながらぼくの体をギュッと抱きしめた。
「ミノルはみんなのことを、何だかわからないと言うわね」
「うん」
「でもあなたは、みんなをわかろうとする努力はしてる? 仲良くなろうとしてる?」
返事をすることも、首をふることも出来なかった。
「それではみんなだって、あなたのことを何だかわからない人って思うんじゃないかしら」
ああそうか。何だかわからないものは、ぼくだったんだ。みんなじゃない。
「わからないものは、やっぱり怖いのよ」
お母さんの吐く息がぼくの耳をくすぐる。首すじに水滴がぽつんと落ちる。それは首をつたい、ぼくの胸をひんやりと冷やした。
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