二章:お母さんとねむち

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 次の日からぼくは、心の中でみんなにあだ名をつけ始めた。 「小指なが男」に「もじゃ子」、「いつでも短パン」。バカになんてしていない。悪口でもない。一人ひとりをじっと見ていると、色んな発見があった。乱暴者だとみんなに言われているヒロシくんが、飼育係をサボらず頑張っていること。おしゃべりな小川さんのおかげで、みんなが楽しく授業をうけられていること。あだ名をつけるのは思ったよりも楽しくて、目の前の世界がどんどん広がっていった。  次に、勇気をだしてみんなに話しかけてみた。お母さんに「そうしなさい」って言われたからじゃない。みんなにあだ名をつけていく内に、ちょっぴり話をしてみたいと思ったからだ。そんな気持ちになるなんて、ぼく自身思ってもみなかった。  はじめは向こうもびっくりしていたけれど、ちょっとずつ会話が続くようになった。もちろん気味悪がる人もいたけど、それは仕方ないと思う。でもぼくは密かに思ってる。今は無理でも、いつか仲良くなれるんじゃないかって。その時までは、もっともっとみんなにあだ名をつけていこうと思う。  あだ名のことを先生に教えてあげたら、とても感心していた。先生っていうのは学校の先生じゃなくて、病気のことを教えてくれたお医者さんの方の先生だ。月に一度、ぼくは都会の病院に行って、先生に診てもらっている。といっても大したことはしていない。知らない人の顔と名まえが書かれたカードをそろえる神経衰弱みたいなゲームをして、あとはおしゃべりしているだけ。とっても気楽なものだ。 「じゃあ、わたしにはなんてあだ名をつけてくれるかな」  もちろん、決まってる。ぼくは先生の腰あたりを指さした。 「ポッケ」  ポケットがこんもりしているから、ポッケ。なんの捻りもないんだけどね。でも少しとぼけた先生にピッタリだと思う。名づけたぼくを、ぼくはほめてあげたい。 「ポッケ? ああなるほどね」  先生は愉快そうに笑い、こんもりとしたポケットをポンと叩いた。 「じゃあ、君が来るときには、お菓子をたくさん用意しておかなきゃな」  そう言って、いつものアメだかガムだかグミだかわからないお菓子を、ポケットから取り出した。
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