三章:お父さんとのバトルはニチアサに

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三章:お父さんとのバトルはニチアサに

「ミノル、戦いの時間よ」  青く透きとおった空がどこまでも続く、よく晴れた日曜日の朝。お母さんはぼくにそう告げる。その言葉を聞いたぼくは、お姉ちゃんを見る。お姉ちゃんは、全てを「了解した」と言わんばかりに、小さくうなずく。その合図をゴングに、ぼくはお父さんを倒しにいく。わが家の日曜日は、戦いから始まる。  お父さんは、プロレス以外にも、たくさんの趣味を持っていた。釣りとかゴルフとか、草野球とか。あんまり上手じゃなかったけれど、ジャズバンドなんかも組んでいた。一体いつ休んでいるんだろうかと心配しちゃうほどに。日曜になれば、“昔のダチ”っていう人たちと、いつもどこかに出かけていた。  でも、今のお父さんはほとんど趣味がない。昔のダチって人たちとも、あまり出かけなくなった。タイガーマスクを被ったあの日から、あれだけ夢中になっていた趣味を、きっぱりとやめてしまったのだ。 「無理やり誘われただけだったしな。ちょうど良かったんだよ」  そうは言うけれど、なんだか申しわけなかった。ぼくのせいでお父さんが、好きなことを諦めるのはやっぱりいやだ。でもお父さんは、「今の趣味はミノルだから」と、ぼくの頭をポンと叩きながら言った。  その言葉どおり、休みになるとお父さんは、色んな場所にぼくたちを連れていってくれた。 「お父さんさ。一度プラネタリウムに行きたかったんだよ」 「水族館でクラゲ展がやってるってよ」 「今日は公園でサッカーやるか」  お父さんが行きたい場所、やりたいことが中心だったけれど、家族みんなでお出かけするのは楽しかった。その他にも、遊園地にも行ったし、雨の日には家で餃子パーティーをした。皮から手作りして、中に入れる具もいろいろ工夫して。お姉ちゃんが作ったブルーベリージャムの餃子は、意外に美味しくてちょっぴり悔しかった。  小学一年生の頃から現在まで、絵日記に描ききれないほどの思い出を、ぼくたち家族はつくった。ずっと日曜日が続けばいいのに。鮭のような色の美味しい夕焼けを眺めながら、じきにやって来る夜を少しだけ憎んだ。
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