18人が本棚に入れています
本棚に追加
二章:お母さんとねむち
わが家の覆面生活は、二年がすぎた今でも続いている。ぼくは小学三年生になり、お姉ちゃんは六年生になった。本当のことを言うと、べつにマスクをしなくても平気なのだ。声や見た目、話し方、クセ……いくらだってみんなを見わける方法はある。たとえばお父さんの頭のてっぺんが薄いとか、ね。
それなのに、誰もマスクを外そうとはしなかった。プロレス好きなお父さんやお姉ちゃんは案外ノリノリでやっているのかもしれないけれど、なぜだかお母さんもマスクを被り続けた。
マスクをするのは家の中だけ。それがわが家のルールだ。だってスーツ姿のタイガーマスクが町にあらわれたら、きっと警察に捕まってしまう。それは困る。だからみんなが居る家の中でだけマスクを被ることになっていた。
もっともご近所さんには、バレているみたいだ。だって晴れた日にはかならず、マスカラスとタイガーマスク、えべっさんの三枚のマスクが、二階のベランダに干してあるんだから。気づかない方がおかしいと思う。
最初のコメントを投稿しよう!