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「私、隣の町でお仕事してたんですけど、崩れた建物で怪我してたんです」
「え?」
「貴方たちヒーラーが治してくれなかったら、こうやってこの子のところに帰ってくることができませんでした。貴方たちのほうがすごいですよ」
彼女は私の左腕に巻いた回復部隊を意味する腕章を見て、そう言った。
きょとんとした顔をした女の子に母親は「このお姉ちゃんたちがママの怪我を直してくれたから帰ってこれたのよ」と囁いた。
女の子は顔いっぱいで微笑み、
「ありがとう、お姉ちゃん!」
と言ってくれた。それは宝石みたいで、夜だというのに私には眩しかった。
「いえ、私はまだまだ未熟です。もっと精進します。失礼します」
ふいに胸の奥から言葉にできない思いみたいのが込み上げてきて、ろくに親子の顔も見ないで私は立ち去った。
なぜか泣きそうだった。
回復部隊で頑張っても誰も私の顔も名前も覚えてくれはしない。でも、こうして町のどこかの誰かに繋がっていて、誰かの役に立っている。
それだけで意味はあるのかもしれない。
私って、すごいジョブの適正があった……のかな?
でも、いまの私じゃ初級の回復魔法しか使えない。
もっと修行すればまたもっとすごい魔法で、もっと多くの人を救えるかもしれない。
大げさかもしれないけれど、目的を見失っていた私にあの親子の存在が何よりのおくすりになった。心から湧き出てくるこの思いはなんだろう。
この思いを「言葉」にできなくたっていい。
早く寝て、魔法力を戻して、明日もいっぱい回復魔法で誰かの役に立ちたい。もっとすごい魔法を使えるようになりたい。
さっきまで重かった足が少し軽くなったような気がした。
空には多くの星が瞬いていて、流れ星がひとつ煌めいて消えた。
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