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「ただいまー」
玄関の方から声がする。父だろう。
1階に降りる。
父が帰ってきて、リビングにいた。
「おかえり父さん」
「おう、ただいま優輝」
「優輝、ほら座って!」
姉に促され椅子に座る。
すると、電気が消える。
「ハッピーバースデートゥーユー」
「ハッピーバースデートゥーユー」
「ハッピーバースデーディアゆうきー」
「ハッピーバースデートゥーユー」
拍手が起こる。
「おめでとう!優輝!」
誕生日だっただろうか。
「優輝、自分の誕生日忘れてたの?」
「いや、なんか……うん……忘れてた……かな」
「自分の誕生日忘れるかぁ?」
父に言われたが、どうでも良くなっていた。
食卓に並ぶ夕食は豪華だ。
誰かの誕生日の日は夕食が豪華だ。
けれど、今日はいつにも増して豪華な気がする。
気のせいではないだろう。
これも、今の僕だからなのかもしれない。
それからいつも以上にたくさんの話をした。
日が沈み、月が昇る。
時刻は午後8時を指している。
「あの、さ」
全員が僕の方を見る。
「どうしたの?優輝」
姉が言う。僕は続ける。
「僕のお願い、聞いてくれる?」
全員が黙る。
何について話そうとしているのかみんな気づいているのだろう。
「言ってみなさい」
父が促してくれた。
「ドナー登録、したいんだけど」
母は口元に手を当てる。
父は聞いてくる。
「理由は?」
「僕は若い方じゃん?なのに死んで全部が無くなるのが嫌なんだよね……だから、僕の何かが残って欲しいなって」
「そうか……」
父は静かに頷いた。
「あなた!」
母が言う。
「そんな……ドナー登録なんて……」
父が母と姉に言う。
「まだ、認めた訳じゃない。だけど、優輝の言いたいことは分かった。だから、優輝……少し3人で話してみても……いいか?」
真剣に捉えてくれる家族が好きだと思う。
「うん。ありがとう」
そう言って部屋に戻る。
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