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正門までの道を少し外れるだけで、投球練習をするピッチャーのすぐそばを通ることに気づいたのは、一年生の秋の頃だ。
「てめえはなんでそんなノーコンなんだあ」
校舎に響くだみ声に足をとめた。顧問の松尾が土をけっとばし、顔を真っ赤にしている。怒鳴られているのは背の高い男子。
「気合い入れて投げればストライク取れるだろ。バカ野郎」
野球を知らない私でも、松尾のアドバイスが役に立たないことはわかった。
だから中学のクラブなんか入らなかったんだよ。あの男子もやめればいいのに。
と思い顔を見たら、胸がドクンと鳴った。けなされても光を失わない目にひきつけられる。
岡にひと目惚れした瞬間だった。
それ以来、機会を作って岡の練習を眺め、勝手にときめいて家路に就く日を一年半ほどくり返していたら、なんとこれからいっしょのクラスでしかも席が隣。
今日も花壇の草花たちに鼻をよせ、上まぶた越しに岡を凝視する。
教室ではゆるんだ印象だったが、ユニフォームに着替えると凛々しく見えるから恋は罪だ。
岡が投げるたびにキャッチャーが指示を出す。
「もっと低めに集めろ」
それでも球は暴れ、ついには顧問のだみ声が炸裂する。
「ちゃんとストライク投げろ、下手くそ」
だったら、どうやって投げればいいか教えてやれよ。
松尾が岡の頭を叩くのを正視できなくて、私は正門にむかった。
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