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無視するか、遠巻きに嫌味を言うだけだった輝が真っ向から攻めてきた。放課後、人数を引き連れて私の前に立つ。ひるまないよう、腹に力を入れた。
「川崎、なんでクラブやらないんだよ」
「数研に入ってるけど」
「あんなの勉強だろ。自分だけ受験の用意しやがって。卑怯者」
なるほど。これが言いたかったのか。家で進路の話が出て、あまりのバカっぷりに文句言われたんだな。それで腹が立って私に八つ当たり、か。
「あんた、走るの速かったよな。体育の時間、手ぬいてんだろ」
輝とは同じ小学校だ。あの頃から、自分はちやほやされて当然だと思っている女だった。
「あたしが嫌々バスケやってんのに、あんたはらくしやがって。不公平だろ。ちょっとは努力しろ」
むき出しの前歯を通った輝の台詞に、目がくらんだ。ポーカーフェイスが割れ、勝手に頬がひきつる。鼻からもれる息が荒い。
お前、胸が破れそうになるくらい、全力で長距離走ったことあるのか。お前みたいに、やらされてるんじゃない。私は自分の意思で走ってる。
お前なんかより、私ははるかに努力してる。
くっそお。なんでこんなやつに。
悔しさが怒りを上回ったせいか、急に目頭が熱くなった。あわてて回れ右。
「おい、待てよ。なに無視してんだよ」
学校で本気の足を出したのは初めてだ。一拍遅れた輝が私に追いつくなんてありえない。
校舎を飛び出し、正門を走りぬけた。ちらりと目に入った野球部は、なぜか全員で腕立て伏せをしていた。
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