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次の日。また輝に絡まれるかと思うと気分はふさいだが、昼休みには違う空気が教室に降りた。
「岡、ハブの川崎なんかとしゃべる暇あったらノーコンなおせよ」
五時間目が始まる間際の襲撃だった。
「お前のせいで俺たちが腕立てってなんなんだよ」
他のクラスの野球部までいる。
「松尾が次はビンタだって。嫌だからな、そんなの。お前、野球部やめろよ」
岡の返事なんていらなかったのだろう。チャイムとともに、野郎たちは姿を消した。
目のはしに、にやにや笑う輝が入った。点と点がすぐにつながる。今の、あの女のさしがねなんだ。陰湿すぎる。
私にさえかまわなければ、岡への嫌がらせはやむ。うん、それがいい。
とは思っても、いざとなれば言葉に詰まる。でも言わなきゃ。
「私と話すのやめなよ」
「なんで」
「さっきのやつら、輝にたきつけられたんだよ」
「かもしれないけど、俺がお荷物なのも事実だ」
「なんでピッチャーに拘るの」
「力いっぱい投げるのって気持ちいいからな。でも、俺が投げると迷惑なんだ」
「腕立てとかビンタって、どういうこと?」
「ストライクが入らないと、全員が罰を食らうんだ」
「わけわかんない」
「連帯責任ってやつだよ」
古くさい言葉一つで松尾の暴力が許されるのか。部活って理不尽の塊だな。私が声を荒げるよりも早く、岡が言葉を継いだ。
「俺は川崎のこと、すげえって思ってる。だからしゃべるのはやめない。輝があんだけ露骨にイジメてくるのに、平気で学校くるよね。よく心が折れないよな。なんで?」
平気じゃないよ。
あんなやつに負けるのは悔しいから。それに。
「もうすぐ、輝を見返せるから」
もっと大きな理由はあるが、はずかしくて口が凍る。
岡はまばたきをとめ、私と目をあわす。
「受験で見返すつもりか。川崎は頭いいもんな」
ううん、受験じゃないんだ。岡の知らない目標が私にはあるんだよ。でもね、私が学校にくる一番の理由は、岡がいるからだよ。
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