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張り出されたクラス名簿に溜め息をあびせた。
三年生は八組もあるのに、輝とまた同じクラスだなんて。
教師ってまったく生徒の仲を見てないよね。私がメンタル弱めの女子なら、不登校が一人、誕生してるんだよ。はあ。また重い息がもれた。
うつむいて教室の床を踏む。一学期が始まったばかりの今日は、男女とも五十音順で席につく。あのあたりか、と探った視界が急に明るくなった。体が宙に浮いた気すらした。
輝の名前に気をとられ、大切なことを見落としていた。自分の苗字が川崎なことに感謝する。
なんと、隣が岡。
背が高いことは知っていた。だけどこれほどだとは。真横に座られると、小柄な私には壁かと思えた。
身長、なんセンチあるの?
初めての会話としては自然だと思うが、私は本に視線を落とす。はずかしくて声をかけられない。
輝は女子バスケ部を中心としたグループを早々に作りあげ、黄色い声を放っていた。クラスが変わっても、カーストの上位はあいつなのか。二年生に引き続き、私は孤独なんだろうな。じんわりと苦いつばがわいた。
数人の男子が輝の輪に加わって笑うのが癇に障る。でも、頬杖をついて居眠りする岡を横目で確認すると、私の薄い胸からは、ほっと息がぬけた。
体育館で始業式を済ませ、教室では担任が自己紹介をし、プリントを山ほど配ったら学校はおしまい。だけど、運動部はこんな日でもある。
「らくだよねー。文科部のやつらは」
輝の憎まれ口は文化部の全員にむけているようで、実は私へのあてこすりだ。
負けるもんか。口の奥でつぶやいて教室から出た。
輝の言う通り、数学研究部はらくちんだ。今日は活動ナシ。私は図書室でお気に入りの図形問題集を解き時間をすごした。
やがて野球部の練習が始まり、運動場は男子たちの大声で埋まる。窓から外へ目をやると、ノックの球を野手が横っ飛びになってグラブに収めようとしていた。
制服で一列にならんでいるのは見学の新入生。顧問の松尾が中年太りの腹をゆすり、なにかを説明している。金網に沿った隅で球を投げこむ長身を確認してから、私は図書室をあとにした。
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