第1章「死神と天使」

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No.2,愛殺人【前編】 『最初は怖かった』 『死にたくなくてさ。だから、すがり付いた』 『そしたら、案外心地良くてさ、一緒にいるのが』 『いつの間にか好きになってて、依存してて』 『もう少し彼と一緒にいたいなって』 『そんな願望が膨らんで』 『その願望は叶わなかった』 『だけどね、彼が僕を殺してくれたんだ』 『それが嬉しかった』 『あぁ、君の手で死ねるのかって』 『何てね、全部嘘だよ』 『……うん、"全部"嘘なんだよ』 * 君と出会った日の事を思い出す。確か、あの日も雨が降っていた。昔の思い出に浸りつつ、夕飯を作る。今日はオムライス。君の好きな料理だ。グリンピースやコーンが入っているケチャップご飯に、ふわふわの卵を被せる。ケチャップでハートを描く。良い感じ、と自賛する。 段々と瞼が重くなり、眠たくなってくる。そう言えば今日はお昼寝をしていなかったな。仮眠程度に寝よう。そう思い、思ったより沈むソファーに寝転がって瞼を閉じた。閉じると、君の顔が浮かんできた。それが、とても嬉しくて幸せで、笑みをこぼしながら、眠りに付いた。 夢を見た。ゆらゆらと揺れる死と書かれたイヤリング。十字架のネックレス。片目が隠されている前髪。漆黒の綺麗な結られている髪。そして、深海色の瞳と着物。そんな厨二病感が漂う見た目をしている美青年は、こう告げた。貴方は残り4日でお亡くなりになられる、と。馬鹿馬鹿しい。そう思った。4日で亡くなられる? 余命宣告なんて何処の物語だよ。唇を力強く噛んだ。 「……痛っ」 唇を力強く噛んだ痛さで目が覚める。唇からは血が出ていて、指で血を拭った。 「あ、やっと起きた」 目を細めて優しく笑う君。おはよう。そう言うと、おはようと頭を優しく撫でてくれる。嬉しくて思わず頬が緩んでしまう。オムライス食べた? と体を起こしてたずねると、食べてないよ、一緒に食べたかったからと惚れてしまいそうな言葉を放つ。これだから、君は僕を虜にするんだ。じゃあ、食べようか! と椅子に座り手を合わせた。 「頂きます」 ――……あれから4日が立ち、今日は出掛けようか、と君は微笑んだ。君からデートに誘ってくれたのが、とても嬉しくて頬が緩んで笑う。 君が似合ってると言ってくれた服を着る。お待たせ、と玄関まで行けば君はしゃがんで、靴紐を結んでくれる。履いていいよと言われ、履く。手を差し伸べて、さぁ行こうかとお姫様をエスコートするような素振りを見せる。あぁ、本当君って奴は。そうやって優しくして、更に僕を虜にしてしまう。 今日は何処に行きたい? と。可能な限り行きたい場所には連れていくよ、と君は微笑んだ。君と行けるなら何処でも良い。君といれれば幸せだから。そう言いたかったけど、折角君がそういっているんだ。僕が行きたい場所に行こう。 「じゃあ、あそこ行きたいな」 僕が指指した所を見ては、驚いて再確認する。そこで良いのか? とたずねられ、そこが良いんだと言う。指指した場所へと足を運んだ。 僕が行きたいと言ったのは、心霊スポットとして扱われている幽霊屋敷だった。茶色と赤の2色が部屋には使用されており、ファンタジーな世界にいるお嬢様が住んでいるような屋敷だった。ここに住んでいたお祖父さんが亡くなられて空き家になったそうだが、夜に屋敷へ行くと幽霊に取り憑かれると言う噂があるのだ。だから、皆はこう呼ぶ。心霊スポットと。空き家に入るだなんて犯罪だ。そう思いながらも、ギィー……と重く立て付けの悪い扉を開けた。 不気味な雰囲気が扉を開けた瞬間漂う。緊迫感、不穏感が僕を取り巻く。唾をゴクリと飲み込み、強く君の手を握った。大丈夫? やっぱり辞めとく? と心配する君を横目に、大丈夫だよ、行く! と前へと進んだ。 赤色のジュータンに壁。茶色の階段に、茶色の扉。どうやら、内面も赤色と茶色で統一しているようだ。 「何か、この屋敷この前一緒に見た映画の屋敷見たいだね」 君は回りを見渡しながら呟いた。確かに、と言うと屋敷の中央へと手を引き、跪付いた。え? と困惑している僕の手を取り、甲にそっとキスをした。 「一生傍にいてくれますか?」 君と一緒に見た映画で、屋敷の中央で手の甲にキスをして、好きですと告白するシーンがあった。だが、何だ? これは。一生傍にいてくれますか? まるで、プロポーズ見たいじゃないか。この世の中は男性同士は結婚出来ないのに。馬鹿見たい。だけど、とても嬉しくて僕は、勿論、と笑ったのであった。 * ――……天野 命(あまの みこと)が亡くなって、1ヶ月 「なぁ、(れい)。今回の願いを叶える人さ、零の事『厨二病感漂う人』だってさ」 茶髪に茶色のタートルネック。煙草を加え吸いながら、真っ白な部屋にちょこんと浮いているスクリーンを見て笑っていた。 「仕方ないでしょう? その姿、神様が勝手にしたのですから。もっと厨二病感が漂わない姿が良かったです」 少々不貞腐れては、口を小さくしてぶつぶつと呟いた。真っ白な部屋に白い羽が上から、ひらりと舞い落ちる。白い羽? と2人は上を見上げた。 すると、そこには天使がいた。黒髪ショートウルフ、ぱっちりとした赤色の瞳、その下にはくまが出来ており、頬には血が浮き出てるガーゼ。左耳には十字架のピアスを付けており、首には包帯。白シャツにネクタイを付けて、黒いパーカーを着ていた。天使の輪と羽が付いているが、容姿からして天使の面影は全くない。どちらかと言うと、容姿は悪魔に近い気がする。そんな事を考えていると、天使は笑みを浮かべた。 「やっほ~! 久しぶりだねっ! 兄さんっ!」 どちらかと言えば声は普通より高く、容姿とは違い明るかった。そんな天使の横には、呆れた顔をした男性がいた。 黒髪ウルフ、切れ長の緑色の瞳、四角い眼鏡、左耳にはピアスを付けていた。灰色のセーターに、白衣を羽織っており、黒色のズボンのポケットからはみ出るスマホの画面は『悪魔のような見た目をしている天使』――突然現れた黒髪ショートウルフの少年だった。 「はぁ……全く、突然何処かに行かないでくれ。次、何処言ったら監禁するぞ」 深いため息を付いては、少年を抱き締めて呟いた。監禁? この人、もしかしてヤバい系の人? ……なんて事を考えながら、少年が口にした『久しぶりだねっ! 兄さんっ!』と言う言葉が脳内にこびりついていた。 「センセーの監禁は嫌だなぁ? だって、センセーったら、普通に気持ち悪いんだもん」 頬を膨らましている少年を更に抱き締めて「気持ち悪いだなんて、ご褒美でしかない……もっと俺を罵倒して!」とドM発言をする。あぁ、何なんだ! この人達は。突然、ここに来てはイチャイチャしやがって。 それを見ているこちらの身にもなれ。眼を飛ばす。ずっと無言だった零は深呼吸を1度して、笑みを浮かべた。この状況で冷静な判断を取り、行動に移す零は凄いな。感心しつつ、吸い殻に煙草を入れた。 「久しぶりですね、小夜(さよ)様……♪ 所で、何か御用ですか?」 一礼し、微笑みかける。何処か「早く帰れ」と言ってるような感じがあり、シガレットケースから煙草を取り出し再び煙草を吸った。 「小夜様だなんて、他人行儀なの辞めようよ~! ……まぁ、いいや。てか、白夜(びゃくや)様から聞いてない? ボク達が来た理由」 白夜様? と首を傾げていたら、零がこっそりと「神様の名前が白夜、って言うんですよ」と教えてくれた。なるほど、と煙草を吸う。 「小夜様達が来た理由なんて聞いておりませんね。……と言うか、さっきから私の助手をじっと見つめて何ですか? 何か言いたい事があるのならば言ってくれませんか?」 何か少し言う事に棘が入っているなと思いつつ、話している光景を見つめていた。すると、少年が近付いて来ては微笑んだ。 「急に驚かせてごめんね! ボクは、天使の水無瀬 小夜(みなせ さよ)っ! よろしくね! そして、こっちはセンセ……間違った、夜咲 朔月(よざき さつき)! ボクの助手っ!」 小さく柔らかい手は、ゴツゴツとした僕の大きな手を包み込むように触る。 「天野 命。宜しく」 「命くんかっ! よろしくね!」 シンプルに自己紹介すると、何故か青年――朔月さんが睨み付けてきた。小夜に触れるな小夜に触れるな小夜に触れるな小夜に触れるな、と呪いをかけるかのようにぶつぶつを呟いていた。怖い怖い怖い。この人何? 怖いんだけど。てか、目的は何? てか、水無瀬 小夜? 零と同じ苗字じゃないか。 ――……久しぶりだねっ! 兄さんっ! もしかして…… 「……兄弟?」 そう言うと「そうだよっ!」「いいえ? 違いますが」と、2人は微笑んで違う回答をした。鋭い目付きで朔月さんは僕を見つめては、やがて愛想笑いを浮かべて「そうだ、2人は兄弟だ」と言った。 あぁ、やっぱり。はぁ、とため息を交えて零は舌打ちをした。いつも冷静な零が、舌打ちをしたり、ため息を付いたりするなんて。何か過去にあったのだろうか? そう思いつつ、他人が過去を探ってはいけないと線を引いた。 「それより、話戻すねっ! ボクは白夜様から、こんな命令を受けたんだっ!」 するとパーカーのポケットから、綺麗に折られている紙を取り出しては、書かれている内容を読み上げた。 「『小夜へ。貴様に命令をする! 零と共に今回の役割を果たせ! きっと、零に話せば役割が分かるだろう! 後は、宜しく頼んだ!』……だって。だから、来たって訳!」 書かれている内容を読み上げると、好きで来た訳じゃねぇよ、と小声で言った言葉を聞き逃さなかった。やっぱり、過去に2人は何かあったのだ。 ピリピリとして、空気の悪い部屋に沈黙が流れる。笑みを浮かべて「役割とは……4日前に余命を告げた方の願いを叶えると言う役割でしょうね。それを小夜様と共同で行うと?」と首を傾げてたずねると「うん、そうだと思う!」と紙をポケットに入れた。仕方ないですね、とため息を付いては顔をあげた。 「正直に言うと小夜様――……貴方と共同作業なんて死んでもごめんです。ですが、仕方がありません。白夜様の命令は"絶対"ですので」 零の言葉にムカついたのか、朔月さんはナイフを持ち出す。小夜はナイフを持っている腕を掴み、口を開いた。 「それは、こっちの台詞なんだよね~? ボクだって、こんな命令されなきゃ兄さんと共同作業なんてしないよっ! あぁ、やっぱり、兄さんの事大嫌いだ」 はぁ、とため息を付いてナイフを見つめていた。吸っていた煙草を吸い殻にいれて、再びシガレットケースから煙草を取り出して吸う。ずっと、煙草を吸っていないと何だか落ち着かない。 「――……今回は、宜しくお願いしますね? 小夜様」 そうやって零が手を差し伸べると 「うんっ! こちらこそ、よろしくね! 兄さん♪」 手を取っては、さっきの出来事がなかったかのように笑みを浮かべた。 人間――いや、人外か。人外も人間と同様、怖いものだな。そう思いながら、中毒性のある苦い煙草を吸った。
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