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No.3,愛殺人【中編1】
『最初はウザかった』
『媚びを売るように抱き付いて来るし』
『媚びを売るように毎日隣にいた』
『その通り、俺に媚びを売っているのは分かっていた』
『だけど、いつの日か、そんな日々が心地よくて』
『あぁ、早く殺さないとって思った』
『何故かって? そんなの他人のお前に言うかよ』
『まぁ、勿論。アイツにも言わないが』
『俺だけの秘密って事だよ』
『え? 最後に一言? あぁ、そうだな……』
『■■■■■』
*
君と出合ったのは雨が頻繁に降っていた、梅雨の日の事だった。今日は友達と遊ぶ日で、待ち合わせをしていた。しかし、いつも時間ぴったりにくる友達は何故か、僕より先に来ていなかった。少し違和感を抱いた。電話をかける。だが、出ない。もう一度電話をかけると、何処かからか微かに着信音が聞こえた。もしかして、近くにいるのかな? 着信音が聞こえる方面へと足を運ぶ。
すると、そこには血塗れの友達と、不審者のような見た目をしてナイフを持っている青年がいた。あ、詰んだ。後悔した時には、もう遅かった。友達を殺したであろう青年は、僕を見ては素早く後ろに回り、首にナイフを当てた。
……最悪だ。僕の最期が、こんな見知らぬ青年に殺されるだなんて嫌だ。死ぬ事に、そんなに抵抗はないが、知らない人に殺されると言う事実だけが、どうも自分のプライド的に許せなかった。
ポツリ、ポツリ、と雨が降る。青年は、ため息をついて僕の手を引いた。え? と困惑しているのを無視して強引に何処かへと連れ去れる。連れて来られた場所は空き家。木に囲まれていて、何処か不気味な雰囲気が漂う。ゲコゲコとカエルが鳴き声が聞こえ、雨音が部屋に鳴り響いていた。
空き家に連れて来られるとは。僕の死亡場所、空き家? 嫌なんだけど。青年と距離をおく。床に座り、窓から外を眺めた。いつ止むかな。ポツリ、ポツリと振っていた雨が、ザー!! と勢いを増す。スマホで天気を確認する。数時間後に雨が止む……? 数時間後とか絶対無理。何で殺人犯と数時間も一緒にいないといけないの。それがとても嫌で「この事誰にも言わないので。じゃあ、また」と逃げようとする。
青年は僕の腕を掴んで「雨、まだ酷いよ。そのまま帰ったら風邪引くから、少し雨宿りしよう。……多分殺さないから安心して」と掴んでる手を離してくれなかった。抵抗して殺されても嫌だ。だから大人しく従った。雨音が響き渡り、ただただ沈黙が続く。青年は外をじっと見つめ雨がやむのを待っているようだ。特に害を加えるような様子を伺えない。沈黙に堪えきれず僕は、とある案を出した。死ぬのは嫌だ。だから電気に纏わり付く蛾のように――青年にすがり付く事にした。
「提案があるんだ」
「提案?」
「僕は君が、人を殺す現場を目撃した。しかも、僕の友達を、ね?」
僕の友達。そこを強調すると青年は少し傷付いた表情を見せる。何故君が、僕の友達を殺した君が、傷付いた表情をするんだ? それが分からなくて困惑しつつ、話を続ける。
「君は僕が誰かに殺した事を言うのが怖い。僕は君に殺される可能性があるから怖い。お互いがお互いの事で恐怖を抱くのは事実だ。そこで――同居しようよ」
僕の提案に驚き呆然とする。下を向いては、ふっ、と笑って口元を手で覆った。面白い奴だなぁ? と態度が急変する。無愛想だった人から、まるで人格が変わるように狂った人へと変わった。いや、さっきの性格は演じていて、こちらが本性といったところか。
「で? 同居するには理由があるんだろ? 詳しく聞かせろよ」
嘲笑う青年は鬱陶しいと感じていた前髪をかきあげる。足を開き、前かがみになる。さぁ、どうぞ? と下から俺を見上げる。
「僕は君の生活をサポートする。料理も洗濯も掃除もするし、マッサージとかして疲れを癒したりもする。とことん、君に尽くす。そして、ずっと家にいる。それが信用出来ないのならば、盗聴機や監視カメラとかを設置する事も許可する。君は僕を監視する。他人に君が人を殺している事を隠す為に。もうすぐで僕が住んでいるアパートが取り壊されるんだ。お互いメリットがある。どうだ? 提案に乗るか?」
一から十説明すると、手で顎を撫で考える。やはり、この提案は却下されるのだろうか。それとも受け入れられるだろうか。どちらにせよ、僕にはデメリットがある。提案を却下された場合、殺される、または殺されなかった場合、いつ殺されるのかと言う恐怖を抱きながら生きる事となる。提案を受け入れられた場合、僕は自由に過ごす事が不可能となる。友達と遊ぶ事も出来ないし、青年のルールはあると思うから、それに従わなければならない。そんなデメリットしかない提案を出し、どちらの言葉が発せられるか分からなくて、少し恐怖に浸る。
「……良いだろう、その提案のった」
雨音が響き渡る中、青年はそう告げた。その提案から、僕と殺人鬼の同居生活が幕を開いた。
*
――現在、空き家にて
「何か、この屋敷この前一緒に見た映画の屋敷見たいだね」
君は回りを見渡しながら呟いた。確かに、と言うと屋敷の中央へと手を引き、跪付いた。え? と困惑している僕の手を取り、甲にそっとキスをした。
「一生傍にいてくれますか?」
君と一緒に見た映画で、屋敷の中央で手の甲にキスをして、好きですと告白するシーンがあった。だが、何だ? これは。一生傍にいてくれますか? まるで、プロポーズ見たいじゃないか。この世の中は男性同士は結婚出来ないのに。馬鹿見たい。だけど、とても嬉しくて僕は、勿論、と笑ったのであった。
それから僕等は部屋を回った。すると彼は「そう言えば、ここには屋上があるらしいよ。行ってみる?」と首を傾げる。「うん! 行ってみたい!」と言えば僕の手を引いて、屋上へと足を運んだ。立て付けの悪い扉を押せば屋上があり、とても見渡しが良かった。
「わぁっ……! ねぇ、めっちゃ見渡しが良いよっ!」
笑ってそう言えば「そうだね」と彼は悲しげな表情を見せた。どうしたの? と近付くと、ポツリと雫が落ちて、ザアァァァァと雨が振った。
「んわっ……! 雨振ってきた! 早く中入ろ! 風邪引いちゃう!」
彼の手を引くが、彼はその場から動かなかった。どうしたの? と顔を覗き込むと僕を抱き締めた。え、と呆然と驚く僕と、震えながら抱き締める彼。
――君と出会った日も雨が降っていた。
彼は抱き締めるのを辞めては、僕の首元にナイフを当てる。え? 何で僕の首元にナイフ当てるの?
……あぁ、そう。僕を殺さなきゃいけないのか。嫌だなぁ、死にたくないなぁ。知ってたよ。君がいつか僕を殺すことも。だって出会った時、僕を殺そうとしていたから。だから死にたくなくて、提案を出して、君にすがり付いた。だって、死にたくなかったから。死にたくなかったから、すがり付いた。それだけだったのに、今は。この生活が心地好くて、愛おしくて、もう少しこの生活を味わいたいと不覚にも思ってしまっている自分がいるんだ。あぁ、嫌だ。死にたくない。
もう少し君と一緒にいたい。……僕は何て幸せ者なのだろうか。だって、愛おしいと言う感情を向けている君に殺して貰えるのだから。僕は思わず笑みを浮かべてしまった。貴方に殺されるのが嬉しくて、幸せで。君は驚いた顔をして最後にこう告げたんだ。
「――――――」
しかし雨音が、その一言をかき消す。ねぇ、何て言ったの? 聞こえ……
――ザシュッ
屋上に血液が舞う。僕の頭が地面に転がる。瞳からハイライトが消える。そこで僕の記憶が途絶えた。
*
――小夜達と共同作業する事になった命達
「それで? 今回、願いを叶える人物は誰なんです?」
嘘くさい笑みを浮かべて零は小夜にたずねた。
「えっとねー! 名前は、村瀬 桜さんっ! 女性のような名前だが、性別は男性!」
小夜は、ポケットからもう1枚紙を取り出しては開き、人物の情報が書かれているのであろう文章を読み上げた。なるほど、と零は手を顎に寄せた。煙草を吸い殻に押し付けて、シガレットケースから煙草を取り出してライターで火を付ける。何度も何度も煙草を吸っていると、朔月が睨んでは「煙草、吸わないでくれる? 空気が凄く悪いんだ」と嘲笑っては指摘する。「生憎、僕は煙草を吸わないと駄目な体になってしまってね。それは無理だ」と嘲笑い返せば、朔月は僕の胸ぐらを掴んだ。
「煙草ってなぁ、吸ってる奴より、煙草の香りを吸ってる奴の方が害があるんだよ。貴様が煙草を吸っているせいで、小夜の体に何かあったらどうする? 良いか? 煙草を吸うのを辞めろ」
早口でペラペラと喋るから聞き取れないなと思いつつ、無視して良いかと煙草を吸い続ける。小夜が僕から朔月を引き離し、零が自分の元に僕を引き寄せる。零と小夜は睨み合い、朔月は小夜を見つめ、僕は天井を眺めていた。そんな、空気が最悪な時だった。
床に魔方陣が現れて、そこから1人の男性が召喚されたかのように現れた。ふわふわした犬のような毛並みをした茶髪の眼鏡をかけた青年は、召喚されたかのように現れては、眠っていた。誰だ、コイツ? と疑問に思っていると、零は微笑んだ。
「この方が村瀬 桜様――今回の願いを叶える人物です♪」
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