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No.4,愛殺人【中編2】
『好きなの』
『大好きなの』
『愛してるの』
『他の人を見ないで』
『他人の血液を付けて帰ってこないで』
『僕だけ見てて』
『抱き締めて』
『一生傍にいて』
『そんな感情が溢れ出るの』
『だけど君は、そんな感情望んでないから』
『僕を殺人対象兼同居人としてしか見てないから』
『は? そんな事ない?』
『煩い! 煩い! 煩い! 煩い!』
『他人が僕等の事情に首突っ込まないで!!!』
――ブツッ
*
好きな香りがした。君が吸っている煙草の香り。僕がいる前では遠慮して吸わない癖に、僕が寝ている時やいない時に吸う。そんな君が好きで大好きで愛おしくて、わざと寝た振りをして、うっすらと目を開けて、その光景を目の当たりにしていた事もあったっけ。そんな事を考えながら、うっすらと目を開ける。そこに君の姿はなかった。
「……え?」
君がいない事に驚いて体を起こす。一面真っ白な部屋に、厨二病な見た目をした青年と、煙草を吸っている青年と、天使と、白衣を着た青年がいた。
ここは何処だ? 君は、何処にいる? 君がいない事に困惑してパニックになる。何で、何で、何で? 何で君はいないの? いつも何処か行く時は置き手紙や僕を起こして伝えるじゃん。それもなしに何処に行ったの? ねぇ。不安が込み上げてきて、頭がぐるぐるする。
困惑していると、着物を着ている長髪の青年がこちらを見ては微笑んだ。あ、この人見たことある。いつしか僕に余命宣告してきた、厨二病な外見をした人。もしかして、ここは夢なのだろうか? 頬をつねるが痛くて、ここは現実なのだと分かった。だけど現実だと受け入れられなかった。
だって僕は君と一緒に空き家に――空き家に行ったんだ。君がデートに誘ってくれて、何処に行きたい?って言ったから僕は空き家に行きたいって。そこで僕は君に――殺され、た……? あはっ……嬉しい、君に殺されるなんて嬉しい。思わず笑みがこぼれてしまうが、口元をおさえる。
「あら、もうお目覚めになられたのですね?」
いつしか見た、厨二病な見た目をした青年は、優しく微笑んで僕に近付いた。目の前に来て跪き、僕と目線を合わせた。本音が見えない瞳をじっと見つめてしまう。このまま見つめ続けてしまえば、吸い込まれてしまいそうとさえ感じてしまう。
「あの、ここは……?」
僕がたずねると「ここは、天国と地獄の狭間です」と青年は答えた。天国と地獄の狭間? 馬鹿馬鹿しい。そんなのある訳ないだろう。疑いをかけるように見つめる。すると青年は口を開き、失礼しましたと苦笑した。
「4日ぶりですね? 改めまして、私は水無瀬 零と申します。生命を司る神――死神です」
一礼して、こちらを見る。……死神? 何処の物語だ? そもそも、こんな世の中に死神だなんている訳がないだろう。神様さえいないのに。天使がスキップしながら、こちらへ来る。そして僕の手を握り満点な笑みを浮かべた。
「始めましてっ! ボク、小夜って言いますっ! ちなみに天使だよ!」
死神の次は天使? 何が何だか分からず困惑していると、白衣を着た青年が分かりやすく、この状況を説明してくれた。
「ここは天国と地獄の狭間……と言っても分からないと思うから、簡単に言うと死神の控え室。そして、君は死んでる。閻魔大王様によって天国へ行くと定められた人間だけが、ここに来れるって感じかな。そして君は天国に行く人間だから、願いを俺らに叶えて貰えるんだ。ただし、1つだけだけど」
……つまり閻魔大王によって天国へ行く事になったから、コイツらが僕の願いを1つ叶えてくれるって事か。なるほどと、完全に理解する。願い、か……。そんなの1つしかないじゃないか。
「願い、それは――桜野 透。透と一生一緒にいたい」
僕がそう言うと、死神と天使は困惑した。何か可笑しな事を言っただろうか? そんな事を考えていると、死神が苦笑して、衝撃の一言を放ったのだった。
「桜野 透と言う人物は、この世に存在していませんよ?」
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