第1章「死神と天使」

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No.4,愛殺人【中編2】 『好きなの』 『大好きなの』 『愛してるの』 『他の人を見ないで』 『他人の血液を付けて帰ってこないで』 『僕だけ見てて』 『抱き締めて』 『一生傍にいて』 『そんな感情が溢れ出るの』 『だけど君は、そんな感情望んでないから』 『僕を殺人対象兼同居人としてしか見てないから』 『は? そんな事ない?』 『煩い! 煩い! 煩い! 煩い!』 『他人が僕等の事情に首突っ込まないで!!!』 ――ブツッ * 好きな香りがした。君が吸っている煙草の香り。僕がいる前では遠慮して吸わない癖に、僕が寝ている時やいない時に吸う。そんな君が好きで大好きで愛おしくて、わざと寝た振りをして、うっすらと目を開けて、その光景を目の当たりにしていた事もあったっけ。そんな事を考えながら、うっすらと目を開ける。そこに君の姿はなかった。 「……え?」 君がいない事に驚いて体を起こす。一面真っ白な部屋に、厨二病な見た目をした青年と、煙草を吸っている青年と、天使と、白衣を着た青年がいた。 ここは何処だ? 君は、何処にいる? 君がいない事に困惑してパニックになる。何で、何で、何で? 何で君はいないの? いつも何処か行く時は置き手紙や僕を起こして伝えるじゃん。それもなしに何処に行ったの? ねぇ。不安が込み上げてきて、頭がぐるぐるする。 困惑していると、着物を着ている長髪の青年がこちらを見ては微笑んだ。あ、この人見たことある。いつしか僕に余命宣告してきた、厨二病な外見をした人。もしかして、ここは夢なのだろうか? 頬をつねるが痛くて、ここは現実なのだと分かった。だけど現実だと受け入れられなかった。 だって僕は君と一緒に空き家に――空き家に行ったんだ。君がデートに誘ってくれて、何処に行きたい?って言ったから僕は空き家に行きたいって。そこで僕は君に――殺され、た……? あはっ……嬉しい、君に殺されるなんて嬉しい。思わず笑みがこぼれてしまうが、口元をおさえる。 「あら、もうお目覚めになられたのですね?」 いつしか見た、厨二病な見た目をした青年は、優しく微笑んで僕に近付いた。目の前に来て跪き、僕と目線を合わせた。本音が見えない瞳をじっと見つめてしまう。このまま見つめ続けてしまえば、吸い込まれてしまいそうとさえ感じてしまう。 「あの、ここは……?」 僕がたずねると「ここは、天国と地獄の狭間です」と青年は答えた。天国と地獄の狭間? 馬鹿馬鹿しい。そんなのある訳ないだろう。疑いをかけるように見つめる。すると青年は口を開き、失礼しましたと苦笑した。 「4日ぶりですね? 改めまして、私は水無瀬 零(みなせ れい)と申します。生命を司る神――死神です」 一礼して、こちらを見る。……死神? 何処の物語だ? そもそも、こんな世の中に死神だなんている訳がないだろう。神様さえいないのに。天使がスキップしながら、こちらへ来る。そして僕の手を握り満点な笑みを浮かべた。 「始めましてっ! ボク、小夜(さよ)って言いますっ! ちなみに天使だよ!」 死神の次は天使? 何が何だか分からず困惑していると、白衣を着た青年が分かりやすく、この状況を説明してくれた。 「ここは天国と地獄の狭間……と言っても分からないと思うから、簡単に言うと死神の控え室。そして、君は死んでる。閻魔大王様によって天国へ行くと定められた人間だけが、ここに来れるって感じかな。そして君は天国に行く人間だから、願いを俺らに叶えて貰えるんだ。ただし、1つだけだけど」 ……つまり閻魔大王によって天国へ行く事になったから、コイツらが僕の願いを1つ叶えてくれるって事か。なるほどと、完全に理解する。願い、か……。そんなの1つしかないじゃないか。 「願い、それは――桜野 透(さくらの とおる)。透と一生一緒にいたい」 僕がそう言うと、死神と天使は困惑した。何か可笑しな事を言っただろうか? そんな事を考えていると、死神が苦笑して、衝撃の一言を放ったのだった。 「桜野 透と言う人物は、この世に存在していませんよ?」
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