五流小説家の夢

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「夢…夢か。一体どこからが夢なんだ」  たるんだ腹、丸いアゴ。  私は携帯を取り出し、着信履歴を確認する。  母、母、母、母、母、姉、母……。  どれだけ探しても企画課からの着信はない。  その市のホームページを確認すると、なんとまだ結果発表前だった。  ……何という事だ。  全てが夢だったということか。  私はひどいショックを受け、枕に顔を(うず)める。  よくよく考えたら『戦国武将名探偵 消えたぼた餅を追え!』なんて大賞に選ばれるわけがないではないか。  完全に趣味に走ったストーリー。  きっと選ばれるのは、もっと華のあるストーリー。  姫君とうんたらとか、お忍びでかんたらとか、ロマンスがある作品だろう。  しかし、本当にこの作品は最初から最後まで楽しく執筆したな…。  Web小説サイトという、作品の昇華先があるというのはなんとありがたい事だろう。  ふと、夢の内容を思い出してみる。  夢の中では完璧だった、授賞式でのコメントもサインのデザインも覚えていない。サインなんて、スラスラっと書けていたはずなのに。  あまりにも夢がリアル過ぎて、現実で受賞の連絡を受けても「これも夢か?」と思って信じられそうにないな、と私はふっと笑った。  時計のアラームが鳴る。起床を知らせるアラームだ。 「……今日は平日か。そうだ、仕事に行かなくては」  好きな小説を好きなだけ書くには、勤労も必要なのだ。  私はその『勤労』がいつか『小説を書くこと』になるのを夢見て、今日も小説のネタを探しながら出勤する。  (了)
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