五流小説家の夢

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 何がおかしいかって、髪型だ。  髪型が非常に野暮ったいのだ。 「そうだ、美容院へ行こう!」  私はひとまず何も購入せずに紳士服専門店を出て、行きつけの床屋でなく、駅前の美容院へ予約の電話を入れる。  ちょうど明日午前中に空きがあるという事で、お願いした。  明日美容院へ行くと、授賞式の直前にまた行かなくてはならないか?と思ったが、このままでは着る服さえ決まらない。 「知的な感じでお願いします」  私の要求に美容師さんは悩み、いくつもヘアカタログを出してきては私に薦める。  いや、イケメンの髪型を見比べたところで自分に似合うかなんてわからないのだが…。  とりあえず適当に、最初に薦められた髪型をお願いした。  なるほど、さすがプロだ。  鏡に写った自分は若々しく知的な感じだ。  しかし見慣れないので、授賞式が過ぎれば結局いつもの床屋でのいつもの髪型に落ち着くのだろう。  何より料金が倍以上した。  私はその髪型のまま昨日行った紳士服専門店へ向かい、再度有名ブランドのスーツを試着した。  ―――何という事だ!  丸い、丸いぞ!  スッキリとした知的な感じの髪型と有名ブランドの重厚感のある高そうなスーツに挟まれた顔が、丸いぞ!  まるで観光地の記念撮影用のパネルに顔を突っ込んだような絵面だ!
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