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 それはただのガラクタだと思われていた。  打ち寄せる海藻が腐り、無数のカニがたむろする鬱屈したビーチ。  観光客など来るわけもないその砂浜に横たわる人型のそれは、赤茶けた金属の背中に片方だけ羽がはえている。  おおかたどこかのアーティスト崩れが捨てたオブジェだろう。  人々はそう考え、それを気にも留めないでいた。  この集落にはよくあることだった。  少し歩けば、海も浜もきれいに整頓され、「インスピレーションが降る島」などと一部でこっそり吹聴されるこの島は、実力もないのに夢ばかりが肥大した者たちが大勢やってくる。  芸術の旗印の下、そういった者たちは、島で大いに羽目を外す。  そうして小手先だけの自分らしさに邁進し、違法薬物の手軽なドーピングに溺れ、やがて憑き物が落ちたように元いた場所へ戻っていく。  去り行く船から爽やかに手を振る頃、彼らは自分がこの島に捨てたもののことなど綺麗さっぱり忘れている。  島のあちこちにばらまかれた愚にもつかない作品も、割れた酒瓶も、齧りかけのマッシュルームも、やがて生まれる父を知らぬ子も。  彼らの狂騒の残骸を島は無関心に受け入れて生きていた。
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