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「さようならば、潮時です。私は鳥。ありがとう、博士」
空が白みはじめた。
夜と朝のグラデーションの中、鳥は羽ばたく。
朝が来た。
あれは寝ぼけた私の見た幻かもしれない。
そう思ったが、通常勤務には早すぎる緊急連絡によりそれが現実だと私は知った。
研究所は消えた23MBを巡って大騒ぎだ。
収容していた部屋の鍵はかかったまま、防犯カメラにも何も映っていない。
センサーも警備員も異常に気がつかない。
最初からそこには何もなかったように、がらんと白い部屋だけが残されていた。
鳥は本当に鳥の合成人的生命体だったのだろうか。
いなくなった今はわからない。
ガラクタ?天使?
それもわからない。
私の手元には六日間の彼のつまらない記録しかないのだから。
国はこの記録を喜ばないだろう。
私の薬は失敗だ。
しかし鳥は救えた。
私の甘い理想はここが終着点かもしれない。だが研究を続ければ、いつしか私の理想と現実が折り合うインスピレーションも降るのではないだろうか。
それは鳥の誘いに言い淀んだ私の使命だ。
島には今日も陽気で無意味な船が着く。
夢をみる人々を乗せて。
裏ぶれた浜では海藻が腐り、カニがたむろしている。
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