一章 波乱の舞踏会

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 「シヤリー。」  だが、その途中で、今度はシヤリーを呼ぶ声がする。さらに、ーー  「ヴィシュー様?!」  「私と一曲、踊りませんか?」  と、ヴィシュー殿下が彼女の目の前まで来ると、恭しく一礼しながら手を差し出してきた。  それに対して、すぐにシヤリーは微笑みを浮かべながら頷き、相手の手を取っていた。なんとなく頬も赤くなっているようだった。  そのまま、彼らは社交ダンスの舞台の方へと歩いていく。  するとシヤリーが去り際に、此方に振り向きながら、  「カレンナ。…私、…今、とっても幸せよ。」  と言い、とびっきりの笑顔を見せてきた。それが言い終わると同時に、ゆっくりと踊りの輪の中へと加わっていった。  その様子を私は黙ったまま見つめながら、自らの容姿を再確認する。まず親譲りの赤い髪と中性的な男顔で、背丈は高くて若干だが肩幅が広い。歳は17歳で、多少は胸も膨らんでいる。だが仕草や動作が荒っぽくて落ち着きがない。だから、それらが要因で、親や親友以外からは、あまり女扱いをされた事がなかった。  その事実が、心の中で渦巻く。次第に二つの単語が、頭の中で過り、思考を支配する様に繰り返しながら思い返す。  結婚、ーー好き合う男女が生涯を共にする。  恋愛、ーー男女が互いに好き合い、支え合うこと。  「…私が、結婚なんて、出来るのだろうか。…」  と私は独り言を呟き、物思いに耽っていく。子供の頃は、シヤリーと同じ様に、年相応の少女らしく、将来の相手を望んでいた事もあった。だが何時しか、そういった考えに至る事もなくなっていた。いったい何が原因なのかは、もうハッキリとは覚えてさえいないのだった。
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