一章 波乱の舞踏会

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 その直後に、再びオーケストラの演奏が流れ出す。  それを合図に、ヴィシュー皇太子とシヤリーが社交ダンスに興じだした。互いに密着しつつ、見つめ合いながら微笑み返しており、なんとも楽しそうである。  他の人々も舞台袖に移動し、二人の様子を見物していた。  とりあえず私も考えるのを止めて、其方の方に視線を向ける。ふと気がつけば、次の曲が始まろうとしていた。  その時、二人の方へと誰かが、ゆっくりと近づいていく姿があった。  それはナンリー姫殿下である。だが、先程までとは異なり、彼女の様子が変だ。顔は俯かせて表情はまでは解らないが、足取りがふらついて辿々しい。  真っ先にシヤリーが気がつき、踊るのを止めて、顔を振り向かせた。  「ナンリー!!?」  すると同時にヴィシュー皇太子が、ナンリー姫殿下の目の前に立ちはだかる。ちょうどシヤリーとナンリー姫殿下の間に割って入って行った。  「ふん!」  「!?…ぐぁっ!!」  しかし次の瞬間に、ナンリー姫殿下が素早く逆手の状態で右腕を振り上げる。その手には果物ナイフを持っており、目の前の相手を切りつけていた。  それに対してヴィシュー皇太子は、辛うじて腕で防御していた。だが前腕部分を怪我をしてしまい血を流しており、苦悶の表情を浮かべていた。スーツにも亀裂が入り、大きな血の染みが滲みながら浮かび上がっていた。
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