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第17話 疑心暗鬼
「これはいったいどういうことですか!」
長政は外宮の一室でシーウォラウォンに詰め寄っていた。シーシンのことについてである。ジェッタ王の補佐を務めてもらうということで長政は彼を説得して王宮に連れ戻していた。が、それ以降、彼の姿を王宮でまったく見かけない。不審に思ってシーウォラウォンの側近のひとりに問いただし、そしてシーシンがアユタヤから遠く離れた場所に幽閉されているということを知ったのはつい昨日のことだった。
「長政殿にはご尽力いただいたにも関わらず、このような結果になってしまい、私も非常に遺憾に感じております」
シーウォラウォンはそう言いながら長政に背を向けて数歩離れた。
「シーシン殿がいったいなにをしたというのですか!」
「ジェッタ王を暗殺しようとしたのです。二人きりになったところで剣を抜いてね。すぐに衛兵が駆けつけてことなきを得ましたが」
——バカな……!
あの温厚なシーシンが自分の甥にあたるジェッタの暗殺を目論むなど到底考えられないし、そのような気配もまったく感じられなかった。
「ジェッタ王と話をさせていただけませんか」
長政のその言葉にシーウォラウォンは顔を少しだけ振り返らせた。その細い目は一見笑っているかのようだが、そこにははっきりと苛立ちが滲んでいた。
「長政殿、あまり勘違いをしないほうがいい。先代のソンタム王とはそれなりに懇意にしていたようですが、そもそも王とはあなたの身分でそう簡単に会って話せるような存在ではないのです」
「ですが、このような重大なこととなれば王からも話を聞く必要が……」
「もしかして私が嘘を吐いているとでも?」
「いや、そのようなわけでは……」
「あなたの活躍にはこれからも期待しています。どうか私を困らせるようなことはしないでください」
シーウォラウォンはそれだけ言って外宮を出ていった。
ひとり残された長政はその場に跪き、唇を噛み締めて大理石の床を殴りつけた。疑心暗鬼、怒り、悔しさ、そして自分が卑劣な謀略に加担してしまったのではないかという罪悪感……。それらの感情がないまぜになって胸の内側で黒い渦を巻いていた。
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