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乱さんに腕をつかまれたまま、僕は幹也さんを見つめる。
「話すって……何をですか?」
「幹也が知ってること全部だよ」
「黙れ、乱」
幹也さんは彼の胸倉をつかみ上げた。シャツがちぎれそうなくらいひねり上げているのに乱さんは全く動じない。
「知らないなんて可哀想じゃない?」
「無駄口やめねぇならぶっ殺すぞ」
「またそんなこと。できないこと言っちゃだめだよ?」
「黙れ……」
急に幹也さんのこぶしから力が抜けたかと思うと乱さんの足元に崩れ落ちた。ギターケースが音を立てて舗道に倒れる。「え、何。どうしたの」とうろたえる乱さんの真横で頭を抱え込んでうめき声を上げる。
「幹也さん! どうしたんですか!」
「ぐ……ぁ……なんでもねぇ……」
「すぐに救急車呼びますから!」
あわてて携帯電話を取り出すと、僕の脚に幹也さんがしがみついてきた。
「そんなもん呼ぶな……」
「だめです、呼びます!」
「呼ぶなっつってんだろ! 透子……に車……」
幹也さんの顔から血の気がなくなって視点が合わなくなってきた。僕は来ていたシャツを幹也さんの頭の下に引いてセッティング中の透子さんを呼びに行く。
透子さんはすぐに資材運搬用のバンを回してきてくれた。ゴンザさんとタイラーさんにも手伝ってもらって幹也さんを助手席に座らせる。
透子さんに指示された通り、錠剤の薬を飲ませると少し様子が落ち着いた。意識もあるけれど呼吸は荒い。本当に救急車を呼ばなくていいんだろうか。
透子さんは後部座席の足元にギターケースを押し込むと、幹也さんに薄いブランケットをかけて運転席に座った。
「矢紘、君はどうする」
「行きます!」
後部座席に乗り込むとなぜか乱さんも入ってきた。透子さんが苦々しい顔つきをする。
「乱兄は残ってくれないか」
「いやだね。透子、ちゃんと俺に報告しなきゃだめでしょ」
「幹也に口止めされていた」
透子さんは乱さんが着席するのを待って後部座席のドアを閉めた。二人の関係が気になったけれど、幹也さんが痛そうにうめき声を上げたのでそれどころではなかった。
車で三十分のところにある病院に向かうと、幹也さんはすぐに処置室に運ばれた。ぐったりとしたままストレッチャーに乗せられた幹也さんを見ていると心臓が締めつけられるみたいに痛かった。
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