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再びあの公園に帰ってくると昨日一夜を明かしたタコの遊具の中へと戻った。
倒れるように座り込む。
オジサンへの謝罪が出来た事に安堵すると、ドッと疲れが身体と心にのしかかってきた。
手元にあるお弁当を見る。
自分が『意地汚いホームレス』と罵ったオジサンからもらったモノだ。
身勝手な発想かもしれないけれど。
許してもらえたのだと、少なくとも自分の気持ちは伝わったのだと思う事にした。
一口食べると抑えていた食欲が爆発したように、止まらなかった。
「美味しい。本当に美味しい。」
定食屋で食べた出来立てアツアツの唐揚げとは比較にならない、廃棄された冷めた唐揚げだったが少年には同じくらい美味しく感じた。
お弁当を食べ終えると少年は、しばらく空を眺めて放心した。
この【行き先】の無い旅。
自分自身の【罪】を償うための旅。
「違うな。」
少年は思い至る。
これは、【罪】から逃げる旅だったんだ。
ただ【宛もなく】、【行き先】を作らずひたすらに【罪】から逃げていただけだったんだ。
やっと自分の行動を言葉にすることが出来た気がした。
「そうだ・・・・・警察に行こう。」
もう【罪】から逃げる事は辞めよう。
そうして少年は、最後の夜を遊具の中で過ごす、
これまでの旅で出会った人たちを思い出しながら。
翌日。
目が覚めた少年は、せめてもの礼儀と思い公園の水道で汚れた顔や髪を洗っていた。
そんな時、少年を呼ぶ声が聞こえた。
「ねぇ、ちょっと君ー。良いかな?」
そこには警察官が2名、少年のすぐ側まで来ていた。
「あ。」
警察官は、少年を挟み込むように立つ。
「君、こんな時間に何してるの?学校は?」
「・・・・」
「君、名前は?」
「杉田 悟です。」
「年は?」
「12歳です。」
すると、一人の警察官が少し離れた所に停車してあるパトカーへ向かうと何やら無線で話出した。
少年は少しの間黙って空を見上げる。
そして全てを悟ったように口を開いた。
「おじさんたちは、僕を捕まえに、、」
「君っ!」
少年の言葉と重なる様に、無線で話をしていた警察官が走って戻ってきた。
「杉田 悟くん。君、S県で捜索願いが出ているね。」
少年は、パトカーの後部座席に誘導されるとゆっくりと車は走り出した。
「悟くん。聞きたい事がたくさんあるんだけど、さっき何か言おうとしていなかった?」
あくまで、事件の全容は犯人の口からというモノか。
「はい。」
少年は一度大きく深呼吸する。
「おじさんたちは、僕を捕まえに来たんだよね?」
「「え?」」
二人の警察官は揃って驚く。
「・・・違うんですか?」
「今朝、警察署に子供が公園で寝泊まりしている。何か事情があるのかも知れないので保護してあげて欲しいと電話があったんだよ。」
「えっ。どこからですか?」
「いやー。公衆電話からみたいだから分からなくてねぇ。我々も最初は、イタズラじゃないかと思ったんだけどね。念のため来てみたらびっくりだよ。」
なんだ・・・なるべく静かにしていたのに。
「それで、君は今まで何をしていたんだい?」
どうせ自主するつもりだったんだ。
全てを話そう。
もう【罪】から逃げない。
少年はまず、善行を目的とした旅のこれまでを話した。
なるべく鮮明に、事実だけを伝えようと必死に。
「さ、悟くん。それは本当なのかい?」
「はい。全て事実です。」
「じぁなんだ。君は自分の罪を償うために、何日も歩き続けていたってことかい?」
警察官二人は、驚きを通り越し半信半疑で聞いてくる。
「はい。自分では罪の償い方が分からなくて。」
大きなリュック、ボロボロの服と汚れたスニーカーを見ると、少年の言葉は真実味をおびる。
「そうか。それは大変だったんだね。」
「いえ。」
「それで、悟くん。君はどんな罪を犯したんだい?」
「はい。」
束の間の沈黙が流れる。
少年は、リュックから何かを取り出した。
それは、皆がよく知る一本10円のスナック菓子だ。
「ぼくは、盗みました。」
少年は続ける。
「近所に、おじちゃんとおばちゃんがやってる駄菓子屋さんがあるんです。小さい頃から良く行く駄菓子屋さんです。」
「ある日、どうしてもこのお菓子が食べたくて。」
「でもその時、お金が無くて」
「でもどうしても食べたくて・・」
「・・ごめんなさい。」
少年は全てを打ち明けた。
今日、自ら警察署を訪れようとしていた事も。
「それで、悟くんは警察署に向かおうしていたの?」
「はい。」 少年は俯き頷く。
警察官の人は、少年の話を最後まで黙って聞いてくれた。
「悟くん。」
「はい。」
「きっとね。警察署に行っても君の旅は終わらないんじゃないかな?」
「え。」
「今の君になら分かるはずだよ」
今の自分になら・・・
「あっ。」
昨夜の映像が蘇る。
「謝らないと、、おじちゃんとおばちゃんに」
「そうだよね」
「じぁ行こうか。」
「え?」
「一緒に、謝りに行こう。」
「ゔんっ」
【おわり】
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