自責の向かう先に

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「はぁ。」 少年は一つ深いため息をついた。 ガサッ。 上半身のみ跳ねさせ自分の背丈、半分程あるリュックサックを背負い直す。 「さて、次はどこへ向かおうか」 もう家を出てから、二週間くらい経っただろうか。 睡眠を取る以外、ほとんどの時間を歩き続けている。足は棒の様になり、逆に止まってしまうと次の一歩が踏み出せるか不安になる。 誕生日に両親から買ってもらった、お気に入りのスニーカーは既にボロボロにくたびれてしまっていた。 しかし、彼は歩かなければならない。 歩き続けなければいけないのだ。 これは、自分が自分に行う罰なんだから。 それから彼は、更に歩く。 国道わきを進み、かれこれ出発してから2つ目の県境までやってきた。 「ここを超えると、N県か。」 辺りを見渡すと、田舎ではあるが民家や小さい定食屋はチラホラ見える。 時計こそ身に付けてはいなかったが、太陽の位置とお店への人の出入りを見ていると、今がお昼時なのだと分かった。 定食屋の換気扇からは、煮付けの香りや揚げ物の匂いが押し出されてくる。 ぐぅ〜。 腹の虫が鳴った。 「お腹すいた」 このゴールの決まっていない旅。 自分自身を戒めるために始めた行為だが、人間は飯を食べなければきっと罪を償う事も出来ない。 実際、ちゃんとした食事はここ数日食べれていない。 何度かパンやおにぎりを買って食べたくらいで、限界に近かった。 路銀も底をつきかけているが、一度くらい定食屋で食事が出来るくらいはあるだろうか。 葛藤の末 少年は近くにある、なるべく高価そうでは無い定食屋を選び扉に手をかけた。 ガラガラガラ。 建付けの悪い引き戸を開けると老夫婦がこちら見るなり「いらっしゃい」と声をかけてくれた。 中は普通で、長テーブルとカウンター席があり綺麗に整頓されている。 しかし、いくつかの長テーブルの上にはイスが逆さまに載せられているのが少し気になった。 「やってますか?」 僕は、ボソッとした声で訪ねた。 老夫婦はニコッと笑みを浮かべると「もちろんっ。営業中だよ。こっちのカウンターに座んな。」と席まで案内してくれる。 ファミレスなんかは、良く家族で訪れていたけど、定食屋には初めて来たので正直緊張する。 ましてや一人だったので余計に心細かった。 そんな心中を察してかは分からないが、おばぁさんが「はいよ」とコップに入った水を出してくれた。 「あ、ありがとうございます。 あのぉ。まだ開店準備中とかだったんじゃないんですか?」 僕は、イスが載せられている長テーブルに視線を送る。 おばぁさんは一瞬、不思議そうな表情をしていたが少年の視線の先に気づくと優しく答えてくれた。 「いやぁね。この歳になると一度にたくさんのお客さんが来てくれても対応できなくてねぇ。ずいぶん前から、ああやって席を減らしてるのよ。気を使ってくれたのね。ありがとうねぇ。」 「あっ、いえ。そんな、、。」 たしかに、老夫婦だけでは料理も接客も追いつかない訳か。 「ボウズ、注文は決まったかい?」 厨房から店主であろう、おじぃさんが声をかけてきた。 「それでは、、、」 一番安いモノは、、、、、。 唐揚げ定食 800円 生姜焼き定食 750円 野菜炒め定食 650円 おしんこ定食 280円 どうしても、唐揚げ定食と生姜焼き定食に目がいってしまい、唾液が溢れ出てくるのが分かる。 「おしんこ定食を一つお願いします。」 おばぁさんが目を丸くする。 店主のおじぃさんも「え、えぇ。おい、ボウズ。おしんこ定食ってアレだぞ。ご飯と味噌汁と漬け物だけの味気ねぇヤツだぞ?」と確認をとってきた。 僕だって本当は、唐揚げや生姜焼きが食べたい。 でも、もうお金がほとんど残っていない。 「はい、それでかまいません。」 少しの沈黙があった。
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