自責の向かう先に

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ボロボロの靴に、身の丈半分程の大きなリュック。 老夫婦も、この少年が何か訳ありなのかとなんとなく察した。 一度、老夫婦はお互いの顔を見合わせる。 「あいよ」 店主のおじぃさんは、厨房に戻っていった。 店内には、TVが設置されていて地方番組だろう。 見慣れないニュースキャスターが、お昼のニュースを読み上げていた。 「・・・・」 今頃、地元では自分の犯した事件がニュースになっている頃かもしれない。 僕は思わずTVから目を背ける。 「坊や、何かあったのかい?こんな大きな荷物なんて持って」 たまらず、おばぁさんが声をかけてきた。 「いえ、何も。」 なるべく顔を隠すように答える。 「歩いてきたのかい?」 「えぇ。まぁ。」 「どこから?」 ドクンっ。 心臓が脈打つ。 「S県から・・・」 「ま、まぁ。S県って、アンタ。隣の隣の県じゃないっ。」 おばぁさんは、驚いたように目を丸くしてる。 しかし、すぐに元の優しい顔に戻ると笑顔で 「そう。ならゆっくりと休んでいきなさい」と、 カラになっていたコップに新しく水を注いでくれた。 最初の一杯目は無意識で飲み干してしまっていたが、よく見るとコップの中身は水ではなく麦茶だと気付いた。 本当においしい。 コップで飲み物を飲むのも、なんだか久しぶりに感じてしまい何度も口に運んでしまった。 料理を待っている間、何組かのお客さんが入ってくると店内は段々と賑やかになっていく。 おしんこ定食なのだから、すぐに出てくるものと思っていたがなかなか出てこない。 「ん?」 どこからか口論する声が聞えてきた。 先ほど入ってきた一組のお客が何やらモメているみたいだ。 おばぁさんがすぐに仲裁に入っていくのが見えた。 自分に接してくれた様に、柔らかい口調で口論する二人を上手になだめていく。 他のお客さんは、実に迷惑そうにその二人を盗み見てはヒソヒソと小声で何か話している。 「僕の犯した罪に比べれば、あの二人なんて、、。」 誰にも聞こえない声で一人呟く。 すると、厨房から店主のおじぃさんが顔を出して「ボウズ、おまちどぉさん。」と定食が僕の前に出された。 「あ、ありがとうございます。えっ。」 そこには、おしんことは別皿で唐揚げが5つも載せられていた。 「おじぃさんっ。ぼ、僕が頼んだのはおしんこ定食ですっ。」 「良いから食いな」 「いやっ。でもっ」 言いかけたタイミングで、おじぃさんは「大きな声を出すと他のお客さんに迷惑だ」と口元に人差し指をつける。 いつの間にか戻ってきていた、おばぁさんも「冷めないうちに、おあがり」とニコッと微笑む。 「すみません、、。いただきます。」 パクっ。 サクッ。 じゅわぁ。 美味しい。 今まで食べた唐揚げの中で一番美味しい。 「美味しい。」 「本当に美味しい。」 うグッ。うグッ。 自然と涙がこぼれてきた。 「美味しい。美味しい。うグッ。」 「なんだ。泣くほど美味いか。ガハハハ」 店主のおじぃさんがカウンター越しに顔を覗かせる。 「あらあら。」 おばぁさんも、周りから少年が見えない様にすぐ近くで壁になってくれている。 「美味しいです。」 あっという間に、唐揚げ定食をたいらげてしまった。 「ご馳走さまです。」 久しぶりの満腹感と、本当に美味しかった料理の余韻に浸る。 おばぁさんは、中身の少なくなったコップに麦茶を注いでれている。 しかし、すぐに我にかえる。 いけない。 僕は、何を幸せそうにしているんだ。 こんな施しを受けて良い人間では無い。 罪人だ。 改めて僕は「ご馳走さまでした。本当に美味しかったです。」と二人に伝えると足早に席を立った。 「もう行くのかい?」とおばぁさんが心配そうな顔をしている。 「はい。もう行かないと」 どこに? そんなものは決まっていない。 「本当に、280円で良いんですか?」 「かまわんよ。またいらっしゃい。」 最後までおばぁさんは、笑顔だった。 「はい。また来ます。絶対に」 僕が自分の罪を償った暁には必ず・・。 そしてこれが【恩】なのだと。 言葉は知っていたが、少年は初めて理解した。
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